スパニッシュ料理とワインで彩る、とびきりのパーティー夜

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六月の夕暮れは、妙にやわらかい。西の空がオレンジとピンクのグラデーションに染まりはじめた午後七時ごろ、友人たちがひとりまたひとりと玄関をくぐってきた。今夜は、スパニッシュ料理とワインを囲むパーティー。それだけで、なんとなく空気が違う気がした。

子どものころ、母が週末に作ってくれた炊き込みご飯のにおいが、台所から漂ってくるたびに胸が躍った。あの感覚に少し似ている。パエリアを炊きはじめると、オリーブオイルとにんにくが鉄鍋の上で溶け合い、サフランの黄金色が米粒をゆっくりと染めていく。鼻の奥をくすぐるような、あの独特の香り。「あ、これだ」と思う瞬間が、料理にはある。

テーブルの上には、小皿がいくつも並んでいた。海老のアヒージョ、色とりどりのタパス、生ハムとチーズの盛り合わせ。スパニッシュ料理の魅力は、こうして皿を囲みながら、誰かと少しずつ分け合うところにある。ひと皿を独り占めするのではなく、「これ食べてみて」とフォークを差し出す、あの小さな親切の積み重ねが、夜をほぐしていく。

ワインは今夜、架空のスペインワインブランド「ヴィーニャ・デル・ソル」の赤を選んだ。テンプラニーリョ種のしっかりとしたタンニンが、アヒージョの塩気と絡み合ってちょうどいい。グラスを傾けると、ガーネット色の液体が揺れ、ほんのりカシスと大地のような香りが立ち上がってくる。隣に座った友人の莉子が、そのグラスを受け取りながらふと「なんかスペインにいる気がする」とつぶやいた。行ったことないのに、とすかさず全員が笑った。

パーティーというのは、料理だけで成立しない。光の角度も、音楽も、誰かが立ち上がってグラスを補充するタイミングも、全部が混ざり合って初めてあの空気になる。キャンドルをひとつ灯したら、テーブルが急に映画のワンシーンみたいになった。料理の湯気がその炎にゆれ、誰かの笑い声が重なって、時間がゆっくり流れはじめた。

パエリアが完成したとき、鍋底にできたおこげの音がパチパチと鳴っていた。スプーンで掬うと、魚介の旨みが凝縮されたご飯が、黄金色のかたまりとして持ち上がる。あの瞬間だけは、みんなが静かになる。食べることへの純粋な期待が、声を消す。

スペインは世界有数のワインの産地でもあり、その生産量はイタリア・フランスに次ぐ世界第三位。
そのワインが、こうして日本の夜の食卓に並んでいることが、少し不思議でもあり、うれしくもある。スパニッシュ料理には、遠い土地の太陽と風が閉じ込められているような気がして、口に入れるたびに少しだけ旅をしている感覚になる。

夜が深まるにつれ、話題はあちこちへ飛んだ。仕事のこと、最近観た映画のこと、来年どこかへ行きたいという漠然とした夢。ワインのボトルが二本目に移るころには、誰もが少しだけ本音に近い声で話していた。スパニッシュ料理のタパスは、そういう夜に向いている。一品一品が小さいから、会話の合間に手が伸びる。食べることと話すことが、自然に交互になる。

窓の外では、六月の夜風が葉をそっと揺らしていた。室内にはオリーブオイルとワインのかすかな香りが漂い、キャンドルの火がゆらゆらと揺れていた。誰かが「また来月もやろう」と言い、誰かがグラスを掲げた。乾杯の音が部屋に響いて、そのまま笑い声に溶けていった。

こういう夜が、また来ればいい。スパニッシュ料理とワインと、少しの音楽と、気の置けない仲間がいれば、それだけでもう十分だった。

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