二人で作るスパイシーカレーライスが、料理の時間を特別にする理由

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梅雨の晴れ間の土曜日、午後二時を少し回ったころのことだった。窓の外に夏の気配がじわりと滲み始め、キッチンには白い光が斜めに差し込んでいた。

彼女がまな板の前に立って、玉ねぎを半分に割ったとき、ツンとした香りがふわりと広がった。目が痛い、と言いながらも手を止めない。そのまま黙々とみじん切りを続ける横顔が、なんだか妙に頼もしかった。ちょっと広めのキッチンは、二人並んでも余裕がある。それがこんなに心地いいとは、以前は思っていなかった。

今日は二人で作るカレーライス。市販のルーを使わない、スパイスから組み立てる本格派だ。クミン、コリアンダー、ターメリック、チリペッパー。小皿に並べた四種類のスパイスは、それぞれが主張の強い個性を持っていて、混ざり合ったときに初めて何かに化ける。料理って、人間関係に似ているかもしれない、なんてことを、フライパンを温めながらぼんやり考えていた。

油を熱して、まずクミンシードを投入する。パチパチと小さな音が立ち、むせるような香ばしさがキッチンに満ちる。これがスパイシーカレーの最初の合図。彼女が「いい匂い」とつぶやきながら鍋の方へ顔を近づけた瞬間、少しだけ目をしかめた。クミンの煙が直撃したらしい。思わず笑いをこらえた。

玉ねぎを加えると、音が変わる。ジュワッと重くなって、しばらくは水分が飛ぶのを待つ時間になる。この炒める工程が、スパイスカレーの肝だ。飴色になるまで、焦らず、でも気を抜かずに。彼女がへらを動かし続けるあいだ、私はトマトを刻んでいた。種を取り除いて、荒く切る。赤い断面から汁が滲んで、まな板を濡らした。

思えば、子どものころに母が作ってくれたカレーは、いつも市販のルーだった。甘くてとろりとした、あの懐かしい味。スパイスから作るカレーを初めて食べたのは、確か二十代の半ば、「マサラテーブル」という小さなインド料理屋だった。路地裏にひっそり構えたその店のカレーは、口に入れた瞬間に香りが鼻に抜けて、辛さより先に複雑な旨みが来た。あれ以来、ルーカレーとスパイスカレーは、自分の中で別の食べ物になった。

鍋の中が飴色に変わったところで、スパイスを投入する。パウダーが熱に触れると、一瞬で香りが変化する。生のまま嗅ぐのとは全然違う、深みのある、少し土っぽいような、それでいて華やかな匂いが立ち上がる。これを「テンパリング」と呼ぶらしい。スパイスを熱で開かせる、という感覚が好きだ。

鶏肉を加えて、表面に焼き色をつける。トマトを入れると、酸味が加わって鍋の色が変わる。ヨーグルトを少し。水を加えて、弱火で煮込み始める。ここからは待つ時間だ。彼女が「ちょっとだけ」とつぶやいてソファに腰を下ろした。五分後に確認すると、すっかりうとうとしていた。

煮込む音だけが静かに続いていた。スプーンで時々かき混ぜながら、窓の外を見ると、光の角度が少し変わっていた。夕方が近づいている。カレーライスは、時間をかけるほどに味が重なる。二人で作るからこそ、その待ち時間も悪くない。

仕上がったカレーをご飯の上にかけると、スパイシーな湯気がふわりと顔に当たった。一口食べた彼女が「これ、お店より美味しいかも」と言った。少し大げさだとは思ったけれど、それでも悪い気はしなかった。

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