二人で作る料理の幸せ——スパイシーなカレーライスが、キッチンに満ちた午後

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梅雨の晴れ間が差し込む土曜の午後、窓から白い光がキッチンのタイルをうっすら照らしていた。ちょっと広めのそのキッチンには、二人分の気配がある。まな板がふたつ。包丁の音もふたつ。

彼女がにんじんを切りながら「皮って剥いたほうがいい?」と訊いてくる。剥いたほうがいい、と答えながら、ふと思う——そういえば子どもの頃、母がカレーを作るとき、にんじんの皮は絶対に剥かなかった。栄養があるからと言っていた。あの頃の家のカレーは、なぜかいつも少し甘かった。バーモントカレーの甘口だったせいかもしれないし、母の手加減のせいかもしれない。どちらでもよかった。ただおいしかった。

今日は違う。二人で作るカレーライスは、スパイシーに仕上げることにした。

玉ねぎを炒め始めると、キッチン全体がじわりと甘い香りに包まれる。フライパンの縁から立ち上る湯気が、昼下がりの光の中でゆらゆらと揺れていた。彼女がその煙に目を細めながら、木べらをゆっくり動かしている。そのしぐさが、なんとなく好きだと思った。言わないけれど。

クミンシードをオイルに落とした瞬間、パチッと小さな音がして、一気に香りが変わる。スパイシーで、少しだけ異国めいた匂い。それまでの甘い玉ねぎの香りとぶつかって、しばらくキッチンの空気が混乱したように漂っていた。これが好きなんだ、と彼女が言う。この「変わる瞬間」が、と。

ガラムマサラとターメリック、それからコリアンダー。スパイスは「ヴェダスパイス」という小さなブランドのものを使っている。近所のセレクトショップで見つけた缶入りのセットで、ラベルが少しレトロで気に入っている。缶を開けるたびに、どこか遠い場所の空気を吸っているような気がする。

鶏肉を入れると、フライパンの音が一段階大きくなった。ジュッという音と、肉の焼ける香ばしさ。彼女がそこで少し離れ、冷蔵庫からトマトを取り出す。「トマト、入れるんだっけ?」と確認しながら、すでに半分に切っていた。入れる、と言う前に入れていた。まあ、正解だから何も言わない。

水を足して煮込みに入ると、二人の動きがゆっくりになる。することがなくなると、なんとなく鍋の前に並んで立つ。コトコトという音が、午後の静けさにちょうどよく溶けていく。彼女がふいに「カレーライスって、なんで煮込んでるときが一番いい匂いなんだろう」とつぶやいた。答えは思いつかなかったが、たしかにそうだと思った。食べる前から、もう満足している。

仕上げにガラムマサラをもう一振り。スパイシーさが引き締まる感じがして、スプーンで少し味見をすると、舌の奥にじわりと熱が広がった。辛い、というより、複雑な温かさ、とでも言うべきもの。

ごはんを炊いておいてよかった、と思いながら皿に盛る。白いごはんの上に、深い琥珀色のカレーをかけると、湯気がふわりと顔に当たった。温度が、やさしかった。

二人で作るカレーライスは、何かが違う。味が変わるわけではないかもしれない。でも、作る時間の分だけ、何かが加わる気がする。スパイシーな香りも、玉ねぎを炒める音も、「これ入れる?」という他愛ない会話も、全部ひっくるめて、今日の一皿になっている。

食べながら、彼女が「次はもっと辛くしてもいいかも」と言った。いいよ、と答えた。また二人で作ればいい。このキッチンで、また今度。

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