二人で作るスパイシーなカレーライスが、料理の時間をもっと特別にしてくれた話

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五月の夕方、窓から差し込む西日がカウンターをオレンジ色に染める時間帯に、ぼくたちはキッチンに立っていた。ちょっと広めのそのキッチンは、二人並んでもまだ少し余裕があって、それがなんとなく嬉しかった。今日は二人で作るカレーライスの日。

玉ねぎを刻むのは彼女の担当だった。まな板の前に立って、すこし眉をひそめながら包丁を動かしている。涙がにじんでいるのか、目元をぬぐう仕草が愛らしい。ぼくはその横でにんにくとしょうがをすりおろしながら、なんとなく「玉ねぎに勝てないんだな」と心の中でそっとツッコんでいた。

スパイスはあらかじめ小皿に並べておいた。クミン、コリアンダー、ターメリック、そしてガラムマサラ。棚の奥に眠っていた「アロマスパイス堂」の小瓶を久しぶりに開けると、鼻の奥まで届くような深くてエキゾチックな香りが広がった。市販のルーも悪くはない、でも今日はスパイスから丁寧に作ってみたかった。

鍋に油を引いて、クミンシードをひとつまみ落とす。じわじわと熱が伝わって、やがてパチパチと小さな音が立ち始める。その音が、なんとなく「始まり」の合図みたいで好きだ。子どもの頃、母がカレーを作るたびにキッチンから漂ってきたあの香りを、ふと思い出した。土曜の昼下がり、テレビの音を背景に、家中がカレーの匂いで満たされていくあの感覚。あの頃はただ食べるだけだったけれど、今こうして自分で作る側に立つと、あの時間がいかに丁寧に作られていたかがわかる気がする。

炒めた玉ねぎがあめ色になってきたころ、彼女が鍋を覗き込んで「いい匂い」とつぶやいた。そのひと言が、なんだか全部報われるような気がして、少し照れた。鶏もも肉を加えて、表面に焼き色をつける。じゅうじゅうという音と、肉の焼ける香ばしいにおいがキッチンに充満していく。

スパイスを加えると、雰囲気ががらりと変わった。ターメリックの鮮やかな黄色が鍋の中に広がって、コリアンダーの爽やかな香りとクミンの土っぽい深みが混ざり合う。これがスパイシーカレーの醍醐味だと思う。ルーとはまた違う、生き生きとした香りの重なり。

トマトを加えて煮込むこと二十分。ぼくが火加減を調整している間、彼女はご飯をよそってくれていた。炊きたてのご飯の湯気が、夕暮れの光の中でふわりと立ち上る。テーブルに並べた皿に、スパイシーなカレーライスをかけると、深い黄金色のルーがとろりと広がった。

一口食べた瞬間、ふたりして少し黙った。スパイスの香りが口の中で弾けて、じわじわと辛みと旨みが広がっていく。これは、ちゃんとおいしい。二人で作るカレーライスは、なぜかいつもより少しだけ特別な味がする。

食べ終わったあと、彼女が「また作ろう」と言った。その言葉を聞きながら、ぼくはもう次のスパイスの組み合わせを考えていた。キッチンに残ったスパイスの香りが、しばらくのあいだ部屋に漂っていた。

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