スパニッシュ料理で彩るワインパーティー、その夜の記憶

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六月の終わりの夕暮れどき、窓から差し込む橙色の光がテーブルクロスの端をやわらかく染めていた。友人たちが集まるのは、こういう夜がいい。誰かが「今夜はスパニッシュ料理でパーティーをしよう」と言い出したのは、たしか二週間前のことだったと思う。

近年、小皿料理(タパス)とワインを気軽に楽しめるスペインバルのスタイルが日本でも広がりを見せており、スパニッシュ料理への注目はますます高まっている。
そのブームは、どうやら私たちの食卓にまで静かに波及していたらしい。

キッチンに立つと、まずオリーブオイルを温めた。
たっぷりのオリーブ油とにんにくがスペイン料理の基本であり、シンプルな味つけの中に素材の良さが引き出される。
フライパンから立ち上るにんにくの香りが部屋中に広がっていく。その匂いを嗅いだ瞬間、子どもの頃に祖母の台所で嗅いだ炒め物の香りをふと思い出した。あの頃は何を作っているのかも知らず、ただその匂いに引き寄せられて台所の入り口に立っていた。

今夜の主役はアヒージョと、魚介のパエリア。それから生ハムの盛り合わせ。テーブルには架空のワインブランド「ヴィニャ・ロハ」の赤ワインを一本、ドンと置いた。スペイン産のテンプラニーリョを使ったこのワイン、実は先週の週末に近所のワインショップで店員さんに薦められたものだ。「パーティーにぴったりです」と言われ、二本買ったところ、帰り道に一本落として割ってしまったのは、今夜だけの秘密にしておきたい。

スペインは世界有数のワインの産地であり、多くのスペインバルやレストランで良質なワインが取り揃えられ、料理を一層美味しくしてくれる。
だから今夜のパーティーでも、ワインは脇役ではなく、れっきとした主役のひとりだ。

友人たちが次々と玄関を入ってくる。最初に来たのは、いつも少しだけ早く着く彩子で、コートを脱ぎながら「いい匂い」と言って目を細めた。その仕草がなんとなく嬉しくて、思わずオリーブオイルをもう少し足した。

パーティーが始まると、テーブルはあっという間ににぎやかになった。アヒージョの小鍋がぐつぐつと音を立て、パエリアの鮮やかな黄色がテーブルの中央に鎮座する。
パエリアは魚介の旨みを丁寧に引き出した一品で、海老や貝類の濃厚な風味が皿いっぱいに広がる。
フォークを入れた瞬間、湯気と香りが同時にふわっと顔に当たって、思わず目を閉じた。

ワインのグラスが何度も満たされ、会話はあちこちへと飛んでいった。スパニッシュ料理の話から、スペインに行ってみたいという話になり、気づけば誰かがフラメンコのリズムを手拍子で叩き始めていた。
モダンスパニッシュの世界では「心まで満たされる」という言葉が使われるほど、料理の体験は食べること以上の何かを与えてくれる。
今夜のこの感覚も、きっとそういうものだと思う。

窓の外はとっくに暗くなっていて、部屋の中だけが温かく光っていた。誰かがグラスをそっとテーブルに置く音、笑い声、フォークが皿に触れるかすかな金属音。それらが重なって、この夜だけの音楽になっていた。

スパニッシュ料理とワインが生み出すパーティーは、ただ食べて飲む時間ではない。それは、人と人がほんの少しだけ近くなれる、そういう夜のことだ。来月もまた、誰かが「集まろう」と言い出してくれることを、ひそかに願っている。

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