
五月の夕方、窓から差し込む斜めの光がテーブルの上でゆっくりと伸びていた。友人たちが次々と玄関を開けて入ってきて、リビングはあっという間に靴とトートバッグと笑い声でいっぱいになった。今日の目的はひとつ。みんなで韓国料理をつくって、食べて、ワイワイガヤガヤ騒ぐこと、それだけだ。
韓国料理といえば辛いというイメージが強いけれど、単に辛いだけが特徴ではない。
それでも、今日の主役はやっぱり「ちょっと辛い」料理たちにしようと、前日から決めていた。コチュジャンをたっぷり買い込んで、キムチも二種類用意した。準備しながら、小学生のころ母が作ってくれたキムチチゲの赤いスープを思い出す。当時は辛くて食べられなかったのに、今では自分でつくるほど好きになっている。人の味覚というのは、ずいぶんと変わるものだ。
まず鍋に火を入れ、サムギョプサルの準備を始めた。
豚バラ肉を厚切りにして焼き、サンチュやエゴマの葉に巻いて食べるのが韓国式の楽しみ方で、キムチやニンニク、ネギなど付け合わせの薬味を添えるとさらに深みのある味わいになる。
肉が鉄板の上で音を立て始めると、脂の焦げる香ばしいにおいがキッチンから広がって、みんなが自然と集まってきた。「もう焼けてる?」と誰かが首を伸ばして覗き込む。まだだよ、と言いながら、その仕草がなんだか可愛くて少し笑ってしまった。
テーブルの中央には、今夜のもうひとつの主役、タッカルビを置いた。
鶏肉と野菜をコチュジャンベースの甘辛いタレで炒め煮した料理で、ピリ辛の味わいと鶏肉の旨みが絶妙に調和し、一度食べたら病みつきになる美味しさが魅力だ。
ちょっと辛い、でも止まらない。その絶妙なラインが、今日集まったメンバー全員の好みにぴったりはまっていた。
最近は「ミナリ(セリ)」を使った韓国料理も注目されていて、代替野菜としても存在感を高めている。
今日はそれにならって、スープにミナリをひとつかみ加えてみた。緑がふわっと広がって、見た目もぐっと鮮やかになる。香りもさわやかで、辛さの中に清涼感が生まれた気がした。
食卓が賑やかになってきたころ、友人のひとりが架空のインテリアブランド「ソリム・ハウス」で買ってきたという小さな陶器の小皿をテーブルに並べ始めた。白地に薄い青の模様が入った素朴なやつで、それにキムチやナムルを少しずつ盛り付けていくと、急に食卓が絵になった。「なんかお店みたい」と誰かが言って、みんなでスマホを取り出して写真を撮り始める。そのうちひとりが撮影に夢中になりすぎて、うっかりサムジャンのタレに袖をつけてしまった。本人は気づいていなくて、しばらく誰も言い出せなかった。気づいたのは食事が終わったあとで、「なんで誰も言ってくれなかったの!」という声が上がって、またひとしきり笑いが起きた。
韓国料理の世界では、ありとあらゆる角度から新しいトレンドが飛び出して、一瞬の盛り上がりを見せたかと思えばすぐ次に移ってしまうのが特徴だという。
それでも、こうして友人たちと囲む食卓に並ぶのは、流行の最先端じゃなくてもいい。ちょっと辛くて、ちょっと懐かしくて、みんながワイワイガヤガヤ笑いながら食べられるものであれば、それで十分だと思う。
食後、誰かが淹れてくれたほうじ茶の湯気がゆっくりと立ち上る。窓の外はもう暗くなっていて、室内の橙色の照明だけが温かく揺れていた。韓国料理が持つ、人を集める力というのは、辛さや旨さだけじゃないのかもしれない。鍋を囲んで、手を伸ばして、誰かの袖にタレをつけてしまうような、そういう距離感の近さが、この食卓の本当の味なのだと思った。

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