スパニッシュ料理とワインで彩るパーティーの夜――小皿の向こうに広がるスペインの空気

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五月の終わりの夜は、なぜかいつもより少しだけ長く感じる。窓の外にはまだ薄紫の残光があって、室内に灯したキャンドルの炎がゆらゆらと壁に影を投げかけていた。その夜、友人たちを招いてひらいたのは、スパニッシュ料理をテーマにしたホームパーティーだった。

テーブルの中央には、鋳鉄のパエリアパンがどんと置かれていた。サフランで染まった黄金色のご飯の上に、海老、ムール貝、パプリカが鮮やかに並んでいる。火を止めた直後のじゅうじゅうという音がまだ耳に残っていて、魚介の旨みとオリーブオイルの香りが部屋中にじわりと広がっていた。あの香りを嗅いだ瞬間、子どもの頃に母が作ってくれたアクアパッツァの記憶がふっとよみがえった。まったく違う料理なのに、なぜかオリーブオイルと海の香りが重なると、あの小さなキッチンのことを思い出す。

ワインは今回、架空のスペインワインブランド「Viento del Sur(ヴィエント・デル・スール)」の赤を一本、白を一本選んだ。赤はテンプラニーリョ種の渋みが控えめで、パエリアの魚介にも肉料理にも不思議とよく合う。白はフレッシュな柑橘の香りがあって、アヒージョのにんにくの香りをすっきりと流してくれる。ワインをグラスに注ぐたびに、液体が光を受けてきらりと揺れた。その色の美しさに、誰かが「宝石みたいだね」とつぶやいた。

スパニッシュ料理のいいところは、一皿が小さいことだと思う。タパスと呼ばれる小皿料理を何種類も並べることで、テーブルが自然と賑やかになる。アヒージョ、生ハムとチーズの盛り合わせ、スパニッシュオムレツ。みんながそれぞれ好きなものを少しずつつまみながら、ワインを傾ける。会話が途切れない。笑い声が重なる。そういうパーティーの空気が、スパニッシュ料理には生まれやすい気がする。

友人のひとりが、ワインを注いでくれようとして、グラスではなくキャンドルホルダーに注ぎかけた。本人も気づいてすぐに「あ、違う違う」と笑いながら軌道修正していたけれど、その一瞬の出来事がテーブル全体をほぐした。ワインのせいかもしれないし、スパニッシュ料理の陽気な雰囲気のせいかもしれない。

夜が深まるにつれ、キャンドルの炎が短くなっていった。誰かがうとうとしはじめ、誰かがまたワインをグラスに足した。パエリアパンの底にはおこげができていて、それをスプーンでこそぎながら食べる時間が、この夜でいちばん静かで幸せな瞬間だったかもしれない。パリッとした食感と、濃縮された旨みが舌の上でゆっくりと解けていく。

スパニッシュ料理とワインのパーティーには、特別な準備がいるわけではない。小皿をいくつか並べて、ワインを一本開けるだけで、テーブルはたちまちスペインのバルのような空気になる。大切なのは、料理の完璧さより、そこに集まる人たちの笑顔だ。五月の夜の残光の中で、そんなことをぼんやりと思った。

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