二人で作るスパイシーカレーライス料理日記――キッチンが狭くても、香りは広がる

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四月の夕方、窓から差し込む光がまだやわらかく傾いている時間帯のことだった。

「玉ねぎ、もう少し薄く切ったほうがいいかな」と彼女が言いながら、包丁をゆっくり動かしていた。うちのキッチンは少し広めで、二人並んでも窮屈にならない。それでも彼女の肘と私の肘が、ときどき軽くぶつかった。そのたびに、なんとなく笑った。

カレーライスを二人で作るのは、今日が初めてではない。でも毎回、どこかが違う。今日は彼女がスパイスにこだわりたいと言い出した。近所の輸入食材店「ソルト&スパイス・ヴェルデ」で買ってきたというクミンとコリアンダー、それからガラムマサラの小瓶が三本、カウンターに並んでいた。

油を熱したフライパンにクミンシードを落とした瞬間、パチッという小さな音がして、むせ返るような香りがキッチン全体に広がった。スパイシーな、でも懐かしいような匂い。子どもの頃、母が休日に作ってくれたカレーとは全然違う香りなのに、なぜか同じくらい胸の奥が温かくなる気がした。

玉ねぎを炒める時間が長い。じっくりと、飴色になるまで。彼女はその間、鼻歌を歌っていた。何の曲かはわからなかったけれど、火加減を調整しながら私は少しだけ耳を澄ませていた。フライパンの底からじゅわじゅわという音が続いて、玉ねぎの甘い香りがスパイスと混ざり合っていく。

肉を入れるタイミングで、彼女が木べらを私に渡してきた。その手つきが、ごく自然で、あたりまえのことのように。渡されたほうも、特に何も言わずに受け取って炒め続けた。こういう小さな動作の積み重ねが、二人で作るということの本質なのかもしれない。

トマトの缶詰を加えたあと、水を注いで煮込みに入る。ここからしばらく時間がある。彼女がコーヒーを二杯淹れてきた。キッチンの隅に置いた小さなスツールに腰かけながら、私たちは煮えていく鍋を眺めた。湯気が立ち上って、窓ガラスがうっすら曇る。四月にしては少し肌寒い夕暮れだった。

ちなみに、ガラムマサラを入れるタイミングをめぐって少し揉めた。彼女は「最初から入れたほうが深みが出る」と言い、私は「仕上げに入れるほうがいい」と主張した。結局、二回に分けて入れることで決着したのだが、そのとき私はうっかりスパイスの小瓶を取り違えて、コリアンダーをガラムマサラだと思って大量に振り入れてしまった。彼女が「それ、違う瓶」と静かに指摘してくれなければ、今日のカレーはかなり異質な香りになっていたはずだ。

煮込んでいる間、キッチン全体がスパイスの熱気に包まれていた。指先が少し温かくなって、窓の外の薄暗くなっていく空と、部屋の中の橙色の光とが対照的だった。こういう時間が、好きだと思う。何かを成し遂げているわけでもなく、ただ鍋をかき混ぜながら、同じ空間にいる。

カレーライスが完成したのは、空がすっかり暗くなったあとだった。二人で作ったスパイシーなカレーは、市販のルーだけで作るものより少し尖った香りがして、でも食べ進めるうちに深いコクが出てきた。彼女は一口食べて「おいしい」と言った。それだけで、今日という時間のすべてが報われたような気がした。

料理は、完成品だけが目的じゃない。二人で作るカレーライスには、過程そのものに意味がある。スパイシーな香りも、木べらを渡す手の動きも、間違えたスパイスの瓶も、全部ひっくるめて、今日だけの一皿になる。

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