ワインと一緒に楽しむスパニッシュ料理パーティー、その夜の記憶

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四月も半ばを過ぎた金曜日の夜、窓の外ではまだ桜の名残がひらひらと舞っていた。リビングのテーブルには大きな鉄鍋が鎮座していて、その中にはサフランで染まった黄金色のパエリアが湯気を立てていた。魚介の出汁が部屋中に広がって、玄関から入ってきた友人たちが「なにこれ、いい匂い」と口々に言いながら靴を脱ぐのも忘れそうになっていた。あの瞬間のことは、何年経っても忘れないと思う。

近年、スペインバルの人気とともにスパニッシュ料理への注目が高まり、タパスとワインを気軽に楽しめるスタイルのお店が日本でも増えてきている。
そんな流れを受けて、自宅でスパニッシュ料理のパーティーを開こうと決めたのは、ちょうど一週間前のことだ。インテリア雑貨ブランド「テラソル・ハウス」で買ったカラフルなタイル柄のランチョンマットを広げて、いつものダイニングをちょっとだけバルっぽく演出してみた。

テーブルに並べたのは、タパスの盛り合わせから始まる小さな物語だった。
定番のイベリコ生ハム、オリーブ、マンチェゴチーズ。生ハムの上品な塩味とオリーブのコクは、白ワインの酸味とよく合う。
そこにアヒージョも加えた。ニンニクとオリーブオイルがぐつぐつと音を立てるあの小鍋を、テーブルの真ん中に置いた瞬間、誰かが思わず「かわいい」と声を上げた。
アヒージョはニンニクとオリーブオイルの香りが食欲をそそる一品で、フレッシュな白ワインとの相性が抜群だ。

ワインはスペイン産のリオハの赤を一本、それからアルバリーニョの白を一本。グラスに注ぐたびに、光を受けてきらきらと揺れる液体の色が美しかった。友人のひとり、まりちゃんが自分のグラスと私のグラスを間違えてひと口飲んでしまって、「あ、これ私のじゃなかった」と笑いながら顔を赤くしていた。それがこの夜で一番笑えた場面だったかもしれない。

スペインは太陽の恵みと地中海に面した恵まれた環境のおかげで高品質な食材に恵まれた国で、スペイン料理は素材の持ち味を活かした素朴でありながら情熱的な味わいが魅力だ。
その「情熱」という言葉が、この日のパーティーにはよく似合っていた。子どもの頃、母が作ってくれたトマト煮込みを思い出したのは、アヒージョのオリーブオイルの香りが漂ってきたときのことだ。あの頃はスペイン料理なんて知らなかったけれど、「素材をそのまま味わう」という感覚は、どこかで繋がっているような気がした。

パエリアが完成したのは夜の八時過ぎ。
魚介類やカラフルな色合いの野菜を使うことで彩り豊かに仕上がり、パーティーやおもてなしにもぴったりの一品だ。
鍋をテーブルの中央に置いた瞬間、全員がスマートフォンを取り出した。写真を撮り終わるまで誰も手をつけない、という暗黙のルールがいつの間にかこの世代には根付いている。それも含めて、今のパーティーの風景だと思う。

スペイン料理とワインのペアリングは、同国の食文化を味わう上で欠かせない。料理に合わせてワインを選ぶと、それぞれの味が引き立て合い、素晴らしい調和が生まれる。
この夜、そのことを身をもって感じた。パエリアのひと口目を食べながらリオハの赤を合わせると、口の中でふわりと広がる旨味の重なりに、思わず言葉が出なくなった。美味しいものを食べているとき、人は静かになる。

スペインバルは、スペイン人にとって第二の我が家とも言えるほど親しまれている場所で、小皿料理とワインを気軽に楽しめるスタイルが日本でも広がっている。
自宅でそのスタイルを再現するのは、思っていたより難しくなかった。むしろ、気の置けない仲間たちと囲むテーブルの方が、どんなバルよりも居心地がいいかもしれない。

夜が深まるにつれて、話題はあちこちへ飛んだ。仕事のこと、旅行のこと、最近見た映画のこと。ワインのボトルが三本目に差し掛かった頃、誰かが「また来月もやろう」と言った。次はガスパチョも作ってみたい、とひとりが言えば、チョリソーのグリルも食べたい、と別の声が重なった。スパニッシュ料理のパーティーは、次の約束を生む。それだけで、十分に豊かな夜だった。

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