スパニッシュ料理でパーティーを彩る夜——ワインと小皿が紡ぐ、とびきり豊かな食卓

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夏の夕暮れが、窓の外でゆっくりと橙に溶けていくころ、キッチンにはにんにくとオリーブオイルの香りが満ちていた。今夜は、スパニッシュ料理を囲むパーティーの夜だ。

タパスとワインを気軽に楽しめるスタイルのお店が日本でも増えてきている
ように、スペインの食文化はいつの間にかこの国の食卓にも根を張り始めている。だからこそ、わざわざレストランに出かけなくても、自分たちの手でその世界を再現したいと思った。準備を始めたのは午後三時。窓から差し込む西日が床に細長い影をつくっていた。

まず取りかかったのは、アヒージョだ。小さなスキレットに注いだオリーブオイルが、じわじわと温まるにつれて、にんにくの香りが部屋の隅々まで広がっていく。その香りだけで、もう食欲は半分くらい満たされてしまう気がする。海老とマッシュルームが油の中でふつふつと踊りはじめると、台所はまるで南欧の小さなバルの厨房になったようだった。

スパニッシュ料理は、味のベースにニンニクとオリーブオイルが用いられ、ソースに凝るよりも新鮮な素材そのものを味わう料理が多いことが特徴だ。
その潔さが好きだと思う。飾りすぎず、素材に正直なところが。

パエリアの準備には少し手間取った。サフランを白ワインに溶かしながら、ふと子どもの頃に母が作ってくれた炊き込みごはんのことを思い出した。あの、炊き上がった瞬間に蓋を開けると立ち上る湯気と香り——パエリアはそれに似ている。違うのは、スペインの太陽の分だけ、もう少し豪快なことだろうか。

ゲストたちが集まってきたのは、午後七時を少し過ぎたころ。リビングのテーブルには、架空のインテリアブランド「Terraverde(テラヴェルデ)」のリネンクロスを敷き、その上にタパスの小皿をいくつも並べた。スパニッシュオムレツ、生ハム、オリーブのマリネ。色とりどりの小皿が並ぶ様子は、見ているだけで気持ちが上がる。

赤ワインの渋みが苦手な方、甘口が好きな方、スパークリングで乾杯したい方など、多様なゲストの好みをしっかりカバーできるワイン
を用意しておくと、パーティーはぐっとスムーズになる。今夜はスペイン産のテンプラニーリョと、泡が細かいカヴァを一本ずつ。グラスに注ぐと、カヴァの気泡がしゅわしゅわと立ち上がって、テーブルの上の光を反射してきらめいた。

「乾杯」と誰かが言って、グラスが触れ合う澄んだ音が部屋に響いた。その瞬間、場の空気がふわっと柔らかくなるのを感じる。ワインパーティーの醍醐味は、こういう瞬間にあると思う。料理の味でも、ワインの銘柄でもなく、あの音と、その直後に広がる笑い声の混ざり合い。

パエリアを運ぶとき、少しだけ失敗した。スキレットを持ち上げた瞬間に布巾がずれて、あわや床にこぼしそうになったのだ。なんとか踏みとどまったものの、心の中では「スペイン人だってこんな失敗はしないだろう」と密かにツッコんでいた。テーブルに着いた顔には、もちろんそんな素振りは一切出さなかったけれど。

スペインは世界有数のワインの産地としても知られており、多くのスペインバルやスペインレストランで良質なワインが取り揃えられていて、料理を一層美味しくしてくれる。
確かにそうだと思う。今夜のテンプラニーリョは、パエリアの魚介の旨みと溶け合うように馴染んで、口の中でひとつの物語になった。

夜が深まるにつれて、話題はスペイン旅行の思い出から、来年どこかに行こうという話まで広がっていった。誰かがグラスを傾けながら「スパニッシュ料理って、なんでこんなに気持ちが緩むんだろう」とつぶやいた。答えは出なかったけれど、きっとそれでいい。

スペインバルは、スペイン人にとっては第二の我が家と言っても過言ではない
という言葉が、今夜のこのリビングにぴったり当てはまる気がした。小皿をつまみ、ワインを傾け、笑いながら夜を過ごす——それはどこの国にいても、人が求めてやまない豊かさのかたちだ。

窓の外はとっくに暗くなっていた。テーブルの上には空になったグラスと、食べかけのオムレツが少し残っている。それでも誰も帰ろうとしない夜は、きっと成功だったということだ。

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