二人で作るスパイシーカレーライス料理記録――キッチンに満ちた、あの夏の香り

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梅雨が明けきらない七月の午後、窓の外ではまだ雨粒が葉を叩いている。それでもキッチンの中は、じんわりと温かかった。

「クミン、どこだっけ」と彼女が棚を探しながら言う。少し広めのこのキッチンは、二人並んでも窮屈にならない。それが気に入っている。冷蔵庫の横に置いた小さなスパイスラックには、クミン、コリアンダー、ターメリック、カイエンペッパーが並んでいて、今日はそれを全部使うつもりだった。二人で作るカレーライスは、いつもこうして始まる。レシピを見ながらではなく、なんとなく相談しながら、なんとなく手が動いていく感じで。

玉ねぎを切り始めると、すぐに目が痛くなった。彼女は涙をこらえながら、それでも包丁を止めない。まな板の上で玉ねぎが崩れるたびに、甘い刺激臭がキッチン全体に広がっていく。フライパンに油を引いて、玉ねぎを入れると、ジュッという音とともに白い煙が立ち上がった。ここから先が長い。あめ色になるまで炒め続けるのが、うちのカレーのこだわりだ。

子どもの頃、母が作るカレーはいつも市販のルーだけで、それはそれで好きだった。でも今は、
クミンやコリアンダー、カイエンペッパーといったスパイスを別鍋で炒めてから加えると、香りと風味が格段に増す
ことを知っている。その違いを初めて感じたのは、たしか三年前、一人で試しに作ってみたときのことだ。あのときの驚きが、今もこのキッチンに続いている。

鶏肉に焼き色をつけているあいだ、彼女はスパイスを小皿に量り出していた。ターメリックの鮮やかな黄色が、白い皿の上で光る。その手つきがどこか丁寧で、見ていると自然と気持ちが落ち着いてくる。「ガラムマサラ、もうちょっと多くしてもいいかな」と彼女がつぶやいた。「好きにしていいよ」と答えながら、内心では(それ、かなり辛くなるやつでは…)と思っていたけれど、黙っておいた。

スパイシーな香りがキッチンに満ちてくると、なんだか空気そのものが変わるような気がする。窓の雨音と、鍋の中でぐつぐつ煮える音が重なって、妙に心地よい。煮込みの時間、二人はとくに何も話さなかった。彼女はカウンターに肘をついて鍋を眺めていて、わたしはご飯を炊く準備をしていた。沈黙が、ちゃんと温かかった。

スパイシーなカレーを楽しむには、ローストオニオンやガーリックの風味が辛さの中に深みを演出する
と言われている。今日のカレーにはにんにくをたっぷり入れた。炒めたときの香ばしさが、部屋の奥まで届いていたと思う。

ご飯が炊き上がる少し前に、ルーを溶かし込んだ。架空のスパイスブランド「マサラ・ノート」のカレーパウダーを仕上げにひとふり加えるのが、最近の定番になっている。これを入れると、カレーライスの輪郭がぐっと締まる感じがして、もう手放せない。

器に盛りつけながら、彼女が「ちゃんとスパイシーになってるといいな」と言った。一口食べると、舌の奥からじわりと熱が広がってきた。辛い。でも、旨い。ガラムマサラを多めに入れた判断は、正解だったらしい。(黙っておいてよかった、と心の中でそっとガッツポーズした。)

二人で作るカレーライスは、手間がかかる分だけ、食べるときの満足感が違う。物価が上がってスーパーの棚を眺めるたびに少し考えてしまう時代だけれど、それでもこうして台所に並んで、スパイスの香りを纏いながら鍋をかき混ぜる時間は、なにかとても贅沢なものに思える。雨はまだ降り続いていた。窓の向こうが少しだけ明るくなってきた気がしたのは、カレーの湯気のせいだったかもしれない。

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