料理が苦手な僕がイタリアンパーティを開いた夜の話

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友達を家に呼ぶって決めたのは、たぶん三週間くらい前だったと思う。

きっかけは何だったか。正確には覚えてないんだけど、久しぶりに大学時代の仲間が集まれそうだって話になって、じゃあ僕の家でやろうかって軽いノリで言っちゃったんだよね。そのときはまだ、自分がどれだけ大変な目に遭うか想像もしてなかった。

問題は、僕が料理をほとんどしないってこと。いや、できないわけじゃない。パスタくらいなら茹でられるし、レトルトのソースをかけることだってできる。でも、それを「料理」って呼んでいいのかは微妙なラインだと思ってる。友達を呼ぶなら、さすがにもうちょっとマシなものを出したい。そう思ったのが運の尽きだった。

で、なぜかイタリアンにしようって決めた。理由は単純で、近所のスーパーに「ラ・トラットリア」っていうイタリア食材の専門コーナーができたから。そこに並んでるオリーブオイルとかバジルとか、なんかそれっぽい瓶を見てたら「これなら俺にもできるんじゃないか」って気がしてきたんだよね。完全に錯覚だったんだけど。

当日の午後三時。キッチンは戦場だった。トマトソースは焦げかけてるし、パスタは茹ですぎて伸びてるし、生ハムは冷蔵庫の奥で干からびてる。なんでこんなことになったんだろうって思いながら、僕は必死でフライパンを振ってた。そういえば昔、母親が「料理は段取りが全てよ」って言ってたのを思い出した。今さらだけど。あのとき真面目に聞いとけばよかったな。

友達が来たのは六時過ぎ。玄関のチャイムが鳴って、ドアを開けたら五人くらいがワイワイ入ってきた。みんな手土産のワインとか持ってきてくれて、それだけでもう嬉しくて、料理の失敗とか一瞬忘れそうになった。リビングに案内して、とりあえず前菜だけテーブルに並べる。カプレーゼとか、生ハムとメロンとか、まあ切っただけみたいなやつ。でも不思議なことに、みんな「うまい!」って言ってくれるんだよね。

家族でパーティなんてやったことあったかなって、ふと考えた。

子どもの頃、誕生日に親戚が集まったことはあったけど、あれはパーティっていうより「集まり」だった気がする。料理も母が一人で準備してて、僕は部屋で待ってるだけ。今思えば、あのときの母の大変さが少しわかる。キッチンで一人、黙々と皿を並べてた姿。あれ、きっと楽しくもあり、しんどくもあったんだろうな。

話を戻すと、メインのパスタは思ったよりマシだった。アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノっていう、にんにくと唐辛子とオリーブオイルだけのシンプルなやつ。シンプルだからこそ誤魔化しが効かないって後で知ったけど、友達の一人が「これ、ちゃんとアルデンテになってるじゃん」って言ってくれて、内心ガッツポーズした。実際は三回くらい茹で直してるんだけど、それは秘密。

テーブルの上にはいつの間にか、持ち寄ったワインのボトルが五本くらい並んでた。赤も白もあって、ラベルを見ながらあーだこーだ言い合うのが楽しい。誰も本格的なワイン通なんていないから、全員が適当なこと言ってる。「これ、果実味が豊かだよね」とか。豊かって何だよって思うけど、言いたくなる気持ちはわかる。

夜が深くなるにつれて、話題はあちこちに飛んだ。仕事の愚痴、昔の恋愛話、誰かが見た映画の感想。料理なんてもう誰も気にしてなくて、ただ笑い声が絶えない時間が続いた。キッチンの換気扇の音と、グラスがぶつかる音。窓の外は真っ暗で、部屋の明かりだけが温かかった。

結局、片付けを始めたのは日付が変わる頃。みんなで皿を運んで、シンクに積み上げていく。洗い物の量を見て、ちょっと後悔したけど、まあいいかって思えた。

次は誰かの家でやろうって話になって、解散した。玄関で手を振りながら、なんだか少し寂しい気持ちになった。

部屋に戻ると、テーブルにはまだワインのグラスが一つ残ってた。誰のだろう。洗おうと思ったけど、そのままにしておいた。明日でいいや、って。

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