二人で作るスパイシーカレーライス料理日記――広いキッチンで、香りと笑いに包まれた午後

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夏の終わりが近づいてきた八月の土曜日、午後二時を少し回ったころ、わたしたちはキッチンに立った。広めのアイランドカウンターが自慢のその台所は、二人並んでも肘がぶつからない。それどころか、彼女が玉ねぎを刻む隣で、わたしがスパイスの瓶を並べるだけの余白がある。こんなに広いキッチンで料理できることが、ちょっとした贅沢だとまだ実感できていなかった。

今日作るのはカレーライスだ。ただし、いつものルウを使わない本格スパイシーカレー。
2025年あたりから、スパイスを巧みに使った刺激的でクセになる黒カレーや、深いコクを極めた本格欧風カレーがトレンドになっている
のを知って、わたしも挑戦してみたくなった。棚から取り出した小瓶の列——クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン。
月桂樹の葉、粉末コリアンダー、粉末ターメリック、粉末クミン、シナモン、カルダモン
と、スパイスをひとつひとつ確認しながら並べていく。それだけで、キッチンがどこか遠い国の台所みたいな香りに変わっていく。

「これ全部使うの?」と彼女が目を丸くした。

使う、と答えながら、わたしはフライパンをコンロに置いた。乾煎りしたクミンシードが熱を帯びて弾ける音——パチッ、パチッ——が小気味よく響く。
スパイスは香りが立つまで弱火で二分ほど炒めることがポイント
で、この工程を丁寧にやるかどうかで仕上がりがまるで変わる。煙が薄く立ちのぼり、ナッツに似た深い香りが鼻をくすぐった。子どもの頃、母がルウのカレーを作るたびにあの甘い市販の香りが廊下まで漂ってきたのを思い出す。あれはあれで好きだったけれど、今日の香りはもっと複雑で、どこか大人びている。

彼女は玉ねぎを担当してくれた。みじん切りにした玉ねぎをフライパンに投入すると、ジュッという音とともに甘い湯気が上がる。
玉ねぎは弱火で二十分ほど、きつね色になるまで炒める
のが正解らしく、わたしはタイマーをかけながら彼女の手元を眺めた。木べらで根気よくかき混ぜる彼女の横顔は真剣で、額にうっすら汗が光っている。窓から差し込む午後の光が、その汗をやわらかく照らしていた。

しばらくして、彼女がわたしに小さな木のスプーンを差し出した。「味見して」という仕草だ。受け取ろうとしたとき、うっかりスパイスの瓶を肘で倒してしまい、ターメリックの黄色い粉がカウンターにふわりと広がった。「……黄色い」と彼女が一言。わたしの指先が鮮やかな黄色に染まったのを見て、二人でしばらく笑った。この料理、完成する前からすでに記念品ができてしまった。

笑いが落ち着いたころ、鍋にトマトと鶏肉を加えた。
トマトの旨みを活かし、ヨーグルトを加えることでまろやかな仕上がりになる
のがこのレシピの特徴で、わたしは小さじ一杯のヨーグルトをそっと鍋に落とした。ぐつぐつと煮立つ音、立ちのぼるスパイシーな蒸気、鼻の奥まで届く刺激的な香り。二人で作るカレーライスは、工程のひとつひとつが会話になる。「もう少し辛くする?」「にんじん、もっと大きく切っても良かったかも」——そんな他愛のないやりとりが、料理の時間をやわらかくほぐしていく。

わたしたちがよく行くキッチン雑貨店「アルティザン・ノルド」で買った深めの鍋が、今日も活躍している。重たい蓋をずらして覗くたびに、色が深まっていくカレーが見えた。スパイスの層が溶け合って、最初の鮮やかな黄色やオレンジが、ゆっくりと濃い琥珀色に変わっていく。その変化を二人で覗き込む時間が、なんだか好きだ。

ご飯が炊き上がり、皿に盛りつけると、キッチン全体がスパイシーな熱気に包まれた。窓を少し開けると、夏の終わりの風がすっと入ってきて、額の汗を冷やしていく。外はまだ明るい。

一口食べた彼女が、目を細めた。何も言わなかったけれど、その表情が答えだった。二人で作るカレーライスは、レシピ通りでも、少しターメリックをこぼしても、きちんとおいしい。そういうものだと思う。

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