ワインと笑い声が溢れる夜――スパニッシュ料理で彩るとっておきのパーティー

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四月の終わりというのは、妙に空気が柔らかい。昼間の陽射しはもう夏の匂いを帯びているのに、夕暮れを過ぎると窓から入ってくる風だけがまだ春の温度をしていて、そのアンバランスさがどこか心地よかった。そんな夜に、友人たちを招いてスパニッシュ料理のパーティーを開いた。

近年、スペインバル人気の高まりとともに、タパスとワインを気軽に楽しめるスタイルが日本でも広まっている。
そのムードをそのまま自宅に持ち込めないかと、ずっと考えていた。テーブルに大皿をいくつも並べて、好きなものを好きなだけつまむ。誰かが誰かのグラスにワインを注いで、会話が途切れないまま夜が深くなっていく。そういう時間を、つくりたかった。

メインに据えたのはパエリアだ。
スペイン東部バレンシア地方発祥のこの料理は、米と野菜、魚介類、肉などの食材をスープごと炊き込む、スペインを代表する世界的に人気の一皿だ。
鉄鍋の底にじわじわと広がるサフランの黄金色、海老やムール貝から立ち上る磯の香り。火を入れながら、ふと子どもの頃に家族で行った海辺の食堂を思い出した。あの頃は魚介が苦手で、父の皿を横目で見ながら白いご飯だけ食べていた。あの子どもが今、同じ香りの料理を自分でつくっているのだから、人生というのはおかしなものだと思う。

スパニッシュ料理の特徴は、ニンニクとオリーブオイルをベースに、ソースに凝るよりも新鮮な素材そのものを味わうスタイルにある。
だからこそ、手をかけすぎないほうがうまくいく。アヒージョはカスエラに材料を入れてオリーブオイルで温めるだけ。ピンチョスはバゲットに具材を乗せてピックで刺すだけ。それなのに、テーブルに並べた瞬間に場の空気がぐっと華やいだ。

ワインは、架空のインポーターブランド「Bodega del Sur(ボデガ・デル・スール)」のラベルをイメージしながら選んだ、スペイン産の赤と白を一本ずつ。
スペインはイタリア、フランスに次ぐ世界第三位のワイン生産国であり、地域によって多様なワインが生まれる。
料理との相性を考えながら選ぶ時間も、パーティーの準備の一部だと思っている。
パエリア、アヒージョ、ガスパチョ、ピンチョスなど、スペイン料理には馴染みのあるメニューが多く、仲間とワイワイ楽しむカジュアルな場にもよく合う。

友人のひとりがワインを受け取りながら、グラスを両手で包むようにして「冷えてる」とつぶやいた。ただそれだけの仕草なのに、なぜかその瞬間が妙に印象に残っている。白ワインのひんやりとした温度が、彼女の手のひらに伝わっていく様子を見ていたら、こういう夜のために料理をするのだと、静かに確信した。

モダンスパニッシュの世界では、「Food × Art × Music」をテーマにした提案も広まっており、食が単なる栄養補給を超えた体験として語られるようになっている。
ホームパーティーでも、その感覚は再現できる。料理の色彩、ワインの香り、友人たちの笑い声。それら全部がひとつの夜をつくっている。

テーブルの上のキャンドルが少し傾いていた。誰かがぶつかったのか、蝋が片側にだけ流れていて、炎がわずかに揺れていた。それを直そうとして、うっかりアヒージョのカスエラに袖が触れそうになり、慌てて引いたら椅子ごとずれてしまった。誰も気づいていなかったけれど、心の中で「危なかった……」と静かにつぶやいた夜だった。

バルセロナスタイルのパエリアは、2日間かけてとった出汁で炊き上げるほど、素材の旨みを丁寧に引き出すことが重視される。
そこまでの手間はかけられなかったけれど、それでも鉄鍋の底に薄く張ったおこげの香ばしさは、食卓に広がった瞬間に歓声を呼んだ。夜の九時を回っても、誰も帰ろうとしなかった。ワインのボトルが空になるたびに、次の話題が始まった。

スパニッシュ料理でパーティーをするということは、料理そのものだけでなく、その場に流れる時間ごと味わうことだと思う。四月の終わりの夜、窓の外では風が少しだけ冷たくなっていた。それでも部屋の中は、ずっとあたたかかった。

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