
ワイングラスを並べながら、私は少し後悔していた。
友人を呼んでスパニッシュ料理のパーティーをやろうと決めたのは三週間前の夜中で、その時はテンションが上がっていたんだけど、いざ当日になってみると「なんでこんなこと言い出したんだろう」という気持ちが湧いてくる。タパスを何種類も作るつもりで食材を買い込んだものの、台所には見慣れない香辛料の瓶が並び、冷蔵庫にはパプリカとニンニクが大量に詰まっている。オリーブオイルの匂いが部屋中に漂っていて、換気扇を回しても消えない。
スパニッシュ料理って、実は日本人の舌に合うと思うんだよね。ニンニクとオリーブオイルをベースにした味付けは、醤油文化で育った私たちにも馴染みやすい。アヒージョなんて居酒屋の定番メニューになっているし、トルティージャも卵焼きの親戚みたいなものだ。だからパーティー料理として選んだわけなんだけど、問題はワインとのペアリングだった。
赤ワインを三本、白ワインを二本用意した。スペイン産のテンプラニーロと、アルバリーニョという白ワイン。名前を覚えるのに苦労したけど、ワインショップ「カーヴ・ド・ラルジュ」の店員さんが丁寧に教えてくれたおかげで、なんとか選ぶことができた。店員さんは「アヒージョには絶対アルバリーニョですよ」と力説していて、その熱量に押されて二本も買ってしまった。
最初に到着したのは大学時代の友人で、彼女は手土産にチーズを持ってきた。スペイン産のマンチェゴチーズ。「パーティーって聞いてスパニッシュだと思わなかったから、とりあえずチーズ買ってきた」と笑っている。いや、招待状に「スパニッシュパーティー」って書いたんだけど…まあいい。チーズはあって困るものじゃない。
そういえば前に、イタリアンパーティーをやろうとして大失敗したことがある。パスタを茹ですぎて、全部くっついた塊になってしまったのだ。あの時の絶望感といったら。今回はその轍を踏まないように、事前に何度もレシピを確認して、タイムスケジュールまで作った。几帳面すぎると自分でも思うけど。
人が集まり始めると、部屋の空気が変わってくる。笑い声とグラスが触れ合う音。アヒージョのグツグツという音が心地よくて、エビとマッシュルームから立ち上る湯気に、みんなが顔を近づける。最初の一口を食べた瞬間、友人の一人が「これ、めちゃくちゃうまい」と言ってくれて、肩の力が抜けた。
ワインを注ぎながら気づいたんだけど、パーティーって料理の完成度よりも、その場の雰囲気の方が大事なのかもしれない。トルティージャは少し焦げてしまったし、パタタス・ブラバスのソースは市販のものを使った。完璧じゃない。でも、みんなが楽しそうにワインを飲んで、料理をつまんで、笑っている。それだけで十分な気がする。
夜が更けてくると、テーブルの上は空いた皿とワインボトルで溢れかえっていた。誰かがギターを持ち出して、下手くそなフラメンコのリズムを刻み始める。スペインに行ったこともないくせに、みんなでオレと手拍子を打つ。完全に雰囲気だけのパーティーになっていたけど、それが妙に楽しかった。
赤ワインのテンプラニーロは、チョリソとの相性が抜群だった。スパイシーなソーセージの脂っぽさを、ワインの渋みがすっきりと流してくれる。友人の一人が「このワイン、もう一杯もらっていい?」と聞いてきて、私は嬉しくなってボトルごと渡した。
結局、用意した料理は全部なくなった。ワインも残り一本になっている。時計を見ると、もう午前二時を回っていた。
次は何料理のパーティーにしようかな、なんて考えている自分がいる。懲りないというか、単純というか。

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