休日の午後、私たちのマンションの広めのキッチンに差し込む陽光が、まるで二人の時間を祝福しているかのように温かい。彼女が持ってきた真新しいエプロンを身につけながら、今日は特別なカレーライス作りに挑戦することにした。
「今日は市販のルーは使わないよ。スパイスから作る本格的なカレーに挑戦してみない?」と私が提案すると、彼女は目を輝かせながら頷いた。スパイスから作るカレーは、確かに手間はかかるけれど、二人で作れば楽しい思い出になるはず。
まずは材料の下準備から始める。私が玉ねぎをみじん切りにする横で、彼女は真剣な表情で人参を切り始めた。包丁を持つ手つきはまだぎこちないけれど、一生懸命な姿が愛らしい。「玉ねぎを切るときは、包丁を寝かせるようにして切ると均一になりやすいよ」とアドバイスすると、彼女は「へぇ、そうなんだ!」と目を丸くする。
キッチンカウンターには、ターメリック、クミン、コリアンダー、カルダモン、シナモンなど、色とりどりのスパイスが並ぶ。「どれもいい香りがするね」と彼女が言うので、一つずつ香りを確かめながら、それぞれのスパイスの特徴を説明していく。彼女は興味深そうに聞いていて、時々メモを取っている。
鍋に油を引き、玉ねぎを炒め始めると、甘い香りが立ち込めてきた。「玉ねぎはしっかり炒めるのがポイントなんだ。キャラメル色になるまで丁寧に」と説明しながら、彼女と交代で木べらを握る。二人で順番に炒めているうちに、玉ねぎは徐々に飴色に変化していった。
ここからがスパイシーカレーの真骨頂。スパイスを順番に投入していく。最初にクミンとコリアンダーを炒めると、キッチンに本格的なカレーの香りが広がり始める。「わぁ、本当においしそう!」と彼女が嬉しそうに声を上げる。その表情を見ているだけで、料理の楽しさが倍増する。
じっくりと時間をかけて作り上げていく過程で、私たちは自然と会話を楽しんでいた。学生時代の思い出話や、それぞれの家族のカレーの思い出、将来の夢まで。カレー作りを通じて、いつもより深い話ができる気がする。
肉を炒めて、野菜を加え、スパイスの効いたルーと絡める。最後に隠し味のはちみつを加えると、彼女が「え?はちみつなんて入れるの?」と驚いた様子。「隠し味だよ。辛さと甘さのバランスが大切なんだ」と説明すると、うんうんと頷きながら真剣に聞いていた。
炊飯器から立ち上る湯気と、カレーの香りが部屋中に漂う。彼女はときどき鍋を覗き込んでは、「いい匂い~」と笑顔を見せる。その度に、二人で料理を作る幸せを感じる。
完成までの待ち時間も、私たちにとっては特別な時間。テーブルセッティングをしながら、これからの休日の過ごし方について話し合う。「次は何を作ろうか」という会話も自然と生まれる。
ようやくカレーが完成。真っ白な皿に、ふんわりと炊けたご飯を盛り、その上からとろりとしたカレーをかける。最後にパセリを添えて完成だ。「わぁ、お店みたい!」と彼女が歓声を上げる。
二人で作ったカレーの味は格別だった。市販のルーでは出せない、スパイスの香り高い本格的な味わい。それ以上に、一緒に作り上げた達成感が、このカレーをより特別なものにしている。
「次は何を作ろうか」という彼女の言葉に、私は心の中でほくそ笑む。料理は二人の関係をより深めてくれる素晴らしい活動だと、改めて実感する。
この日のカレーは、少し辛めに仕上がった。でも、二人で作ったからこそ、その辛さも愛おしく感じる。汗をかきながら「辛いけど、やみつきになる味だね」と笑い合う。
キッチンで過ごした時間は、私たちの大切な思い出になった。材料を切るところから、スパイスを調合し、最後の盛り付けまで。すべての工程が、二人の心を近づけてくれた気がする。
後片付けも二人で行う。私が洗い物をする横で、彼女は丁寧に拭き取りをしてくれる。使用したスパイスの瓶を戻しながら、「次はもっとスパイシーに挑戦してみようか」と彼女が提案する。その言葉に、私は心から笑顔になった。
この日のカレー作りは、単なる料理以上の意味を持っていた。二人で一つのものを作り上げる喜び、新しいことに挑戦する楽しさ、そして何より、一緒に過ごす時間の大切さを教えてくれた。
キッチンの窓から差し込む夕暮れの光が、二人の影を優しく包み込む。この瞬間を、私は永遠に心に刻んでおきたいと思った。次は何を作ろうか、そんな期待に胸を膨らませながら、私たちの料理の時間は続いていく。
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