友達と囲む、夏の夜の料理パーティ――イタリアンで家族みたいに笑い合える食卓のつくり方

Uncategorized

ALT

八月の夕方、西日がようやく傾いてきたころ、キッチンにはにんにくとオリーブオイルが混ざり合った香りが充満していた。換気扇を回しても追いつかないくらい、その匂いはリビングまで漂ってきて、「もう始まってる」と誰もが察する合図になる。今夜は友達を呼んでのホームパーティ。テーマは、イタリアン。

イタリアでは「家族や友人と食卓を囲む時間」を大切にする文化があり、料理には人と人の絆を深める役割もある。
その言葉を知ったのは、去年の秋、旅先で手に取った小さな料理本だった。ページをめくるたびに、どこかの家庭の台所が浮かんでくるような、あたたかくて少しざわついた感じ。その感覚を、今夜ここで再現したかった。

準備は昼すぎから始めた。まずトマトソースをじっくり煮込む。ざく切りにしたトマトとにんにく、そこにバジルを数枚ちぎって加えると、鍋のなかがみるみる赤くなっていく。
新鮮なトマトやオリーブオイル、チーズ、さまざまな野菜をふんだんに使い、素材の持ち味を活かすのがイタリア家庭料理の特徴だ。
難しい技術はいらない。ただ、火加減だけは丁寧に。煮詰まってきたときの、ぽこぽこという低い音が好きで、子どものころ母がミートソースを作るたびにそばで聞いていた記憶がある。あの音を聞くと、なぜかほっとする。

友人たちが集まってきたのは夕方六時を少し過ぎたあたり。「手伝う!」と言いながらも、結局みんなワインを開けてしまい、気づけばキッチンには人が増えすぎて、かえって混雑していた。誰かがパスタを茹でる鍋を探してキャビネットを開けたとき、なだれのようにタッパーが落ちてきて一同が静止した。あれは今夜いちばんの笑いだったかもしれない。

クコの実を散らしたカプレーゼ、生姜たっぷりの和風パスタなど、一見いつもの料理に新しい知恵を取り入れるスタイルが家庭料理まで浸透しつつある。
そのトレンドを参考に、今夜の前菜はカプレーゼにした。モッツァレラとトマトを交互に並べて、上から良質なオリーブオイルをまわしかける。仕上げに粗挽きの黒こしょうをひと振り。それだけで、テーブルの上がぱっと明るくなった気がした。

メインはラザニア。
家族や友人の集まるパーティにもぴったりで、香味野菜をたっぷり使ったラザニアはイタリア料理の中でもファンが多い一皿だ。
オーブンに入れてから焼き上がるまでの二十分間、キッチンに漂うチーズの焦げた香りがたまらなかった。窓の外はもう暗くなっていて、室内のオレンジ色の照明が白い壁に反射して、なんとなく映画のワンシーンみたいな雰囲気になっていた。「ヴィラ・ノッテ」という名前のキャンドルホルダーをテーブルに置いたのも、この夜のためだった。

食事が始まると、会話はあちこちに飛んだ。仕事の話、最近見た映画、来月の旅行の計画。誰かが話の途中でワインのグラスを傾けながらうとうとしかけて、隣に座っていた友人がそっと肩を叩く。その仕草が、なんとも家族みたいで、胸のどこかがあたたかくなった。血がつながっているわけじゃないのに、こういう夜があると、家族という言葉の意味が少し広がる気がする。

料理は、つくるだけじゃなく、囲むことで完成するんだと思う。
イタリアン料理の最大の特徴は、素材本来の味を大切にしたシンプルな調理法と、地域ごとや家庭ごとに引き継がれる伝統の味が根付いている点にある。
それはきっと、レシピの話だけじゃない。誰かと一緒に食べること、笑うこと、時間を共有すること。そういうものが全部重なって、はじめてひとつの「食卓」になる。

八月の夜はまだ蒸し暑くて、窓を開けると生ぬるい風が入ってきた。それでも、テーブルの上のキャンドルの炎は揺れながらも消えなかった。ラザニアの残りをラップで包みながら、「また来月もやろう」と誰かが言った。返事は声じゃなくて、うなずきと笑顔だった。それで十分だった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました