スパニッシュ料理とワインで彩るパーティー夜、食卓に宿る小さな情熱の話

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五月の夕暮れは、なぜあんなにも早く部屋の中まで橙色に染めてくるのだろう。窓の外では風がそっとカーテンの裾をはらい、テーブルの上に並べたワイングラスが、その光を受けてひっそりと輝いていた。今夜は友人たちを呼んでのパーティー。テーマは「スパニッシュ料理とワインの夕べ」と決めていた。決めたのは三週間前。でも準備に本腰を入れたのは、正直、前日の夜だった。

近年、スペインバルの人気とともにスパニッシュ料理への注目が高まり、タパスとワインを気軽に楽しめるスタイルのお店が日本でも増えている。
その流れが家庭のパーティーにまで広がってきたのは、ごく自然なことかもしれない。小皿をいくつも並べ、ちびちびとワインを飲みながら会話を楽しむ。あの「ゆるやかな豊かさ」こそが、スパニッシュ料理の真骨頂だと思う。

まず取りかかったのは、アヒージョだった。
スパニッシュ料理はニンニクとオリーブオイルを味のベースに用い、ソースに凝るよりも新鮮な素材そのものを味わう料理が多い。
だからこそ、初心者でも怖くない。小さな耐熱皿にオリーブオイルをたっぷり注ぎ、鷹の爪とニンニクを沈める。火にかけた瞬間、ジュワッという音とともに、むせるほど香ばしいニンニクの香りが台所中に広がった。思わず目を細めてしまうほどの、あの香り。子どもの頃、祖母が餃子を焼くたびに台所へ引き寄せられたあの感覚と、どこか似ていた。

友人たちが到着したのは、ちょうど夜の七時を少し回った頃。「ソル・デ・ベルデ」というスペイン産の白ワインをテーブルに出すと、誰かが「わあ、ラベルがきれい」と言った。架空のブランドではなく、実在する名前のようでいて、でも私にはそのワインの記憶が妙にリアルに残っている。グラスに注いだ瞬間、青リンゴのような涼しい香りが鼻をかすめ、部屋の空気が少し変わった気がした。

スペインは地域によって料理に大きな違いがあり、パエリアはスペイン東部バレンシア地方発祥の料理。また、南部では冷製スープのガスパチョが有名だ。
今夜のメインはそのパエリア。フライパンに米を広げ、魚介の出汁を回しかける。エビとムール貝が沈んでいくたびに、オレンジ色のサフランがじわじわと米に染み渡っていく。その色の変化を眺めながら、なんとなく「これは絵画みたいだ」と思った。

ところが、ここで小さな事件が起きた。パエリアを大皿に盛り付けようとした私は、鍋つかみを裏表逆に持ったまま熱いフライパンの縁に触れてしまった。「あっ」という声と同時に、隣にいた友人の麻衣子が素早くタオルを差し出してくれた。彼女はそのとき、さっきまで飲んでいたワインのグラスを右手に持ったまま、左手だけでタオルをひょいと渡してくれたのだ。その器用さに、場の全員が一瞬笑った。なんとも頼もしい、ワインを手放さない救助である。

スペインはワインの産地としても知られており、多くのスペインバルやスペインレストランで質の高いワインが揃えられ、料理を一層美味しくしてくれる。
今夜も、ワインはそうやって食卓の空気を和ませ、人と人のあいだにある小さな距離を縮めてくれていた。

モダンスパニッシュは「Food × Art × Music」をテーマに五感を刺激する体験として注目されている。
その考え方は、家のパーティーにだって応用できる。音楽はフラメンコギターのプレイリストをかけ、照明は少し落とした。蜜蝋のキャンドルがテーブルの中央でゆらゆらと揺れ、その炎がワイングラスに映り込んで、まるで小さな太陽がいくつもテーブルに浮かんでいるようだった。

パエリアは魚介類やカラフルな色合いの野菜を使うことで彩り豊かになり、パーティーやおもてなしにもぴったりの一品だ。
大皿に盛られたパエリアが運ばれてくると、「わあ」という声が上がった。エビの赤、パプリカの黄色、パセリの緑。それだけで、食卓が一瞬、どこか遠い南の街の広場みたいになった。

スパニッシュ料理は、難しくない。むしろ、その大らかさこそが魅力だ。タパスを並べ、ワインを開け、誰かが笑って、誰かが少し眠そうな顔でグラスを傾ける。そんなゆるやかな時間の積み重ねが、パーティーという名の夜をつくっていく。窓の外の五月の風は、まだ少し冷たかった。でも部屋の中は、料理の熱と笑い声で、じんわりと温かかった。

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