休日の午後、私のマンションのキッチンに彼女を招いて、二人でカレーライス作りに挑戦することになった。実は、これが私たちにとって初めての料理デート。彼女は料理が得意というわけではないけれど、「一緒に作りたい!」と目を輝かせていたので、比較的簡単なカレーライスを選んでみた。
キッチンに立つ彼女の横顔が、午後の柔らかな日差しに照らされて綺麗だ。エプロンを付ける姿も様になっていて、思わずスマートフォンでこっそり撮影してしまう。「もう、見てないで手伝ってよ!」と言われて、慌てて包丁を握った。
まずは玉ねぎの皮むきから始める。彼女が真剣な表情で玉ねぎと格闘している姿が愛らしい。「あ、目が染みる…」と言って困っている彼女に、「玉ねぎを切るときは、少し首を後ろに引くといいよ」とアドバイス。でも、そう言いながら私も目が染みて涙目になってしまう。二人で顔を見合わせて笑った。
にんじんやじゃがいもの皮むきは彼女が担当。私は肉を一口大に切る作業を進める。「ねぇ、この大きさでいい?」と彼女が不安そうに見せてくる野菜の切り方は、確かに少し大きめだけど、「うん、ちょうどいいよ!」と励ます。料理の腕前よりも、一緒に作る過程を楽しみたいから。
今回は市販のカレールーを使うけれど、スパイシーな本格的な味を目指したい。そこで、私が以前インド料理店で教えてもらったスパイスの使い方を実践することに。クミン、コリアンダー、ターメリック、そしてガラムマサラ。それぞれのスパイスを彼女の鼻先に差し出すと、「わぁ、いい香り!」と目を丸くする。
玉ねぎを炒めている間、キッチンに立つ私たちの間には心地よい沈黙が流れる。時々肩が触れ合うたびに、なんだかドキドキする。玉ねぎがきつね色になってきたところで、肉を投入。「焦げないように混ぜるのが大事なんだよ」と説明しながら、彼女に木べらを渡す。
彼女が真剣に具材を炒める様子を見ながら、ふと思う。普段は外食やデリバリーが多い私たちだけど、こうして一緒に料理を作ることで、新しい絆が生まれている気がする。包丁を握る手つきは不慣れでも、一生懸命な姿に胸が温かくなる。
水を入れて野菜を煮込んでいる間、私たちは調理台に寄りかかって待つ。「あのね、実は私、カレーって得意料理なの」と彼女が突然言い出した。「え?さっき初めてって言ってたよね?」と聞き返すと、「うん。でも、今日あなたと作ってみて、なんだか自信がついちゃった」と笑顔で答える。
野菜が柔らかくなったところで、いよいよカレールーを投入。市販のルーに加えて、準備しておいたスパイスも加える。「スパイシーすぎない?」と心配する彼女に、「大丈夫、これくらいが美味しいんだよ」と答える。実は私も少し不安だったけど、彼女の前では強がってみせた。
ルーが溶けて、香りが立ち始めると、キッチンの中が本格的なカレーの香りで満たされる。二人で交代でかき混ぜながら、味見をする。スプーンを口に運ぶ彼女の表情が、とても幸せそうに見えた。
「あ!このスパイスの組み合わせ、すごくいい!」と彼女が感動した様子で言う。その言葉を聞いて、私も嬉しくなる。完成までの時間を利用して、お皿やカトラリーを用意する彼女の後ろ姿を見ながら、この時間がとても贅沢に感じられた。
炊いておいたご飯をよそって、その上にできたてのカレーをかける。最後に彩りのためにパセリをのせると、見た目も鮮やかな二人だけの特別なカレーライスの完成だ。「いただきます!」の声が、いつもより弾んでいる。
最初の一口を食べた瞬間、彼女の目が輝いた。「すっごく美味しい!」という言葉に、私も思わず顔がほころぶ。スパイシーながらも、野菜の甘みとルーのコクが絶妙なバランスを保っている。二人で作ったからこそ、この味になったんだと思う。
食事をしながら、次は何を作ろうかと話が弾む。「今度はハンバーグを作ってみたい!」と彼女が提案する。その言葉に、また一緒に料理ができる約束が生まれた喜びを感じる。
食後の後片付けも二人で行う。私が洗い物をして、彼女が拭き取りを担当。息の合った作業に、まるで長年一緒に暮らしているかのような錯覚を覚える。キッチンに残るスパイシーな香りが、今日の思い出を優しく包んでいる。
「また作ろうね」という彼女の言葉に、心から頷く。初めての料理デートは、予想以上の成功だった。カレーライスという普通の料理が、二人で作ることで特別な思い出に変わった。キッチンを去る前に、もう一度二人で作ったカレーの香りを深く吸い込む。この香りと、今日の幸せな時間が、きっと長く心に残るだろう。
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