彼女と作るカレーが毎回スパイシーすぎる件について

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うちのキッチン、妙に広い。

引っ越してきたとき不動産屋が「料理好きにはたまらない間取りですよ」って言ってたけど、正直そこまで料理するタイプじゃなかった。週末にパスタ茹でるくらい。ただ彼女が来るようになってから、このスペースがやけに活きるようになってきた。二人で並んで立っても全然窮屈じゃないし、調理台も作業スペースがたっぷりある。で、最近のブームがカレー作り。彼女が「スパイスから作ってみたい」とか言い出したのが始まりだった。

最初に作ったのは確か三月の日曜日。彼女がスーパーでクミンとかコリアンダーとかターメリックとか、聞いたこともないスパイスを山ほど買い込んできて、キッチンに並べた光景は今でも覚えてる。小瓶が十個くらいずらっと並んで、まるでどこかの研究室みたいだった。「これ全部使うの?」って聞いたら「当たり前じゃん」って笑ってた。その笑顔が妙に自信満々で、ちょっと不安になったのを覚えてる。

玉ねぎを炒めるのは俺の担当になった。彼女曰く「飴色になるまで炒めるのが大事」らしい。最初は強火でじゃんじゃん炒めてたんだけど、彼女に「もっと弱火でじっくり」って何度も言われて、結局三十分くらいかかった。キッチンに玉ねぎの甘い匂いが充満して、窓を開けたら春の生ぬるい風が入ってきた。その間、彼女はトマトを刻んだり、にんにくと生姜をすりおろしたり、テキパキ動いてる。俺が玉ねぎと格闘してる横で、彼女はスパイスを小皿に計量してた。その真剣な横顔を見てると、なんか料理番組みたいだなって思った。

そういえば前に付き合ってた人は料理が全然ダメで、一緒にキッチンに立つこと自体なかったな。あの頃は外食ばっかりだったし、家で何か作るって発想がなかった。別にそれが悪かったわけじゃないけど…なんていうか、今の方が楽しいかもしれない。

で、問題はここからだった。スパイスを投入する段階になって、彼女が「カイエンペッパー入れるね」って言いながらドバっと入れた。俺が「ちょっと多くない?」って言ったときには既に遅くて、鍋の中で真っ赤な粉末がぐるぐる混ざってた。「大丈夫大丈夫、スパイシーな方が美味しいから」って彼女は言ってたけど、その表情がちょっと焦ってるように見えた。

出来上がったカレーは見た目は完璧だった。トマトの赤とスパイスの色が混ざって、深みのあるオレンジ色。ご飯によそって、二人でテーブルについて、いただきますって言って。

一口食べた瞬間、口の中が火事になった。

「辛っ!」って叫んだら、彼女も「うわっ」って顔してて、二人で水をがぶ飲みした。牛乳も飲んだ。ヨーグルトも食べた。それでもまだ辛い。彼女が「ごめん、入れすぎた」って謝ってきたけど、なんか笑えてきて、二人でゲラゲラ笑いながら汗かきながら食べた。窓全開にして、扇風機まで出してきて。四月なのに真夏みたいな状況になってた。

それから毎週のようにカレーを作るようになった。二回目は辛さ控えめにしようってことで、カイエンペッパーをほんの少しだけ入れた。今度は逆に物足りなくて、食べながら「もうちょっと辛くてもよかったね」とか言い合ってた。三回目は中間を狙ったんだけど、なぜか前回より辛くなってて、またしても水を飲みまくる羽目に。彼女が「スパイスの配合って難しいね」ってぼやいてた。

キッチンに立つ時間が増えると、彼女の癖みたいなのが見えてくる。調味料を入れるとき、必ず味見してから入れること。包丁を使った後、すぐに洗うこと。鍋を火にかけたら絶対にその場を離れないこと。几帳面というか、丁寧というか。俺はわりと適当に料理するタイプだから、最初は「そこまでしなくても」って思ってたけど、彼女が作る料理は確かに美味しい。失敗したカレーでさえ、辛さを除けば味のバランスは良かった。

広いキッチンの利点は、二人で作業してても邪魔にならないことだけじゃない。片方が洗い物してる間に、もう片方がデザート作れるとか、そういう同時進行ができる。この前なんて彼女がカレー煮込んでる横で、俺がサラダとラッシー作ってた。ラッシーはヨーグルトとマンゴーをミキサーで混ぜるだけだから簡単。辛いカレーにはラッシーが最高に合う。これは発見だった。

最近は彼女が「スパイスブレンド研究ノート」とか言って、小さなノートに配合をメモするようになった。「クミン大さじ1、コリアンダー大さじ2、ターメリック小さじ1…」とか書いてる。で、毎回微妙に配合を変えて実験してる。俺はそのノートを見ながら「これ理科の実験みたいだね」って言ったら、「料理は科学だから」って真顔で返された。

まだ完璧なカレーには辿り着いてない。毎回何かしら失敗する。辛すぎたり、塩が足りなかったり、煮込み時間が短くて玉ねぎのシャリシャリ感が残ってたり。でもそれがなんか楽しい。次はもっと美味しくなるかもって思えるから。

日曜の午後、キッチンからスパイスの匂いがして、彼女が鍋をかき混ぜてる音が聞こえる。今日はどんな味になるんだろう。

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