
週末の朝、車のトランクにテントや寝袋、クーラーボックスを詰め込みながら、子どもたちの興奮した声が響き渡る。今日から一泊二日の家族キャンプが始まるのだ。普段は仕事や学校、習い事に追われる日々だが、年に数回のこのキャンプだけは何があっても予定を空けると決めている。なぜなら、自然の中で家族と過ごす時間こそが、私たちにとってかけがえのない宝物だからだ。
キャンプ場に到着すると、まずはテント設営から始まる。父親がポールを組み立て、母親がペグを打ち込み、子どもたちはロープを引っ張る。それぞれが役割を持ち、協力しながら一つの家を作り上げていく作業は、まさに家族の縮図そのものだ。テントが完成すると、次はいよいよキャンプの醍醐味である料理の準備に取りかかる。
キャンプ料理の魅力は、何と言っても家族全員が参加できることにある。普段の家庭では母親一人が台所に立つことが多いが、キャンプでは違う。父親は焚き火の準備をし、子どもたちは野菜を洗ったり、食材を運んだりと、それぞれができることを見つけて動き出す。この自然な役割分担こそが、家族の絆を深める秘訣なのだと私は信じている。
今回のメニューは定番のカレーライスとバーベキュー、そして朝食用のホットサンドだ。カレーは家で作るものとは一味も二味も違う。まず、焚き火で炊くご飯の香ばしさが格別だ。飯盒に米と水を入れ、火加減を調整しながら炊き上げる。最初は強火で一気に沸騰させ、その後は弱火でじっくりと蒸らす。この火加減の調整が難しく、何度も失敗を繰り返してきたが、今では子どもたちも火の様子を見ながら薪を足したり減らしたりできるようになった。
カレーの具材を切るのは子どもたちの仕事だ。包丁の使い方もキャンプを通じて学んできた。最初は危なっかしくて見ていられなかったが、今では玉ねぎもニンジンも上手に切れるようになった。「お母さん、この大きさでいい?」と確認しながら切る姿に、子どもの成長を感じずにはいられない。キャンプという非日常の空間が、子どもたちに生きる力を教えてくれているのだ。
ダッチオーブンでカレーを煮込む間、バーベキューの準備も進める。炭に火をおこすのは父親の役目だ。着火剤を使わず、新聞紙と小枝だけで火をおこす姿を、子どもたちは尊敬の眼差しで見つめる。「お父さんすごい!」という言葉に、父親の顔がほころぶ。普段は会社で疲れた顔をしている父親も、キャンプ場では頼れるリーダーとして輝いている。
炭火が安定したら、いよいよ肉や野菜を焼き始める。ジュージューという音と共に立ち上る煙、香ばしい匂いが食欲をそそる。焼きマシュマロも子どもたちの楽しみの一つだ。串に刺したマシュマロを火にかざし、表面がこんがりときつね色になるまで待つ。焦がしてしまって真っ黒になることもあるが、それもまた思い出の一つだ。
夕食の時間は、焚き火を囲んでみんなで輪になって座る。星空の下、揺れる炎を見つめながら食べる料理は、どんな高級レストランの食事よりも美味しく感じられる。「今日のカレー、最高においしいね」「お肉も柔らかくて最高!」と、お互いの料理を褒め合う。普段はスマートフォンを見ながら食事をすることもある子どもたちも、この時ばかりは顔を上げて家族と語り合う。
食後は片付けも家族総出で行う。食器を洗い、ゴミを分別し、食材を整理する。キャンプでは水も貴重な資源だから、無駄遣いしないよう工夫する。こうした経験が、子どもたちに環境への意識を芽生えさせてくれる。都会の便利な生活では学べない、自然との共生の大切さをキャンプは教えてくれるのだ。
夜が更けると、焚き火を囲んでの団らんの時間が始まる。炎を見つめながら、今日あった出来事を話したり、明日の予定を立てたり、時には昔の思い出話に花を咲かせたりする。普段はなかなかできない深い会話が、自然とできるのもキャンプの魅力だ。子どもたちが学校であったことを詳しく話してくれるのも、この時間ならではだ。
翌朝は早起きして、朝食のホットサンド作りに挑戦する。ホットサンドメーカーに食パンとハム、チーズ、卵を挟んで焚き火で焼く。両面がこんがりと焼けたら完成だ。外はカリカリ、中はとろりとしたチーズと半熟の卵が絶妙にマッチする。淹れたてのコーヒーと共に味わう朝食は、一日の始まりに最高のエネルギーを与えてくれる。
キャンプでの料理を通じて、私たち家族は多くのことを学んできた。協力することの大切さ、自然の恵みへの感謝、そして何より家族と過ごす時間の尊さだ。便利な調理器具がなくても、限られた食材でも、工夫次第で美味しい料理は作れる。そしてその過程を家族で共有することで、絆はより一層深まっていく。キャンプ料理は単なる食事作りではなく、家族の思い出を紡ぐ大切な営みなのだと、私は心から実感している。


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