真っ赤なサングリアが揺れる大きなピッチャーを、私は両手で慎重に持ち上げた。グラスに注がれる瞬間、フルーツの香りが空間に広がり、パーティーの始まりを告げる。今夜は、スペインをテーマにした大人のホームパーティー。準備に3日かけた自信作の数々が、テーブルを彩っている。
まず目を引くのは、大きな平鍋いっぱいに作ったパエリア。サフランの黄金色に染まったご飯の上には、エビやムール貝、イカの輪切りが鮮やかに配置されている。パエリアは timing が命。ゲストが到着する30分前に最後の火を止め、蓋をして蒸らしておいた。これで米の芯までしっかりと火が通り、海の幸の旨みが染み渡る。
テーブルの中央には、スペイン産の生ハムとチーズの盛り合わせ。24ヶ月熟成のハモン・セラーノは、薄くスライスして軽く扇状に並べた。その隣には、マンチェゴチーズやイディアサバルチーズなど、数種類のスペインチーズを配置。蜂蜜を添えて、ワインのおつまみに最適な一皿に仕上げた。
アヒージョは、小さな土鍋で作った。たっぷりのオリーブオイルにニンニクと唐辛子を入れ、エビやマッシュルームを漬け込んでじっくりと火を通す。熱々のうちにバケットを添えて供すれば、オイルまで余すことなく楽しめる一品だ。
タパスも欠かせない。ガーリックシュリンプ、アンチョビのマリネ、ピメントのロースト、スペイン風オムレツのトルティージャなど、小皿に盛られた様々な前菜が、テーブルを賑やかに彩る。これらは全て、ワインとの相性を考えて選んだメニューだ。
ワインは、スペインならではの個性的な銘柄を揃えた。まずは食前酒として、カバ(スペイン産スパークリングワイン)を用意。さっぱりとした泡立ちが、これから始まる食事への期待を高めてくれる。
メインには、リオハとリベラ・デル・ドゥエロの赤ワインを2種類。テンプラニーリョ種の持つ力強さと優雅さは、パエリアやハモン・セラーノとの相性抜群だ。白ワインは、アルバリーニョとベルデホを選んだ。魚介類を使った料理に寄り添う、爽やかな酸味と果実味が特徴だ。
そして締めくくりには、自家製サングリア。赤ワインをベースに、オレンジやレモン、リンゴなどのフルーツを漬け込み、ブランデーとシナモンで風味を整えた。氷を入れすぎないよう注意を払い、フルーツの甘みと酸味のバランスを保っている。
照明を少し落とし、BGMにはフラメンコギターの静かな音色を流す。8人掛けのテーブルには、キャンドルの灯りが揺らめき、より一層スペインらしい雰囲気を演出している。
ゲストが次々と到着し始める。まずはカバで乾杯。グラスが触れ合う音と共に、会話が弾み始める。パエリアの色鮮やかさに歓声が上がり、アヒージョの香ばしい香りに「早く食べたい」という声が漏れる。
ワインを注ぎ足しながら、料理の説明を加えていく。スペインワインの特徴や、各料理に使われている食材について、知っている範囲で解説する。食材の選び方や調理方法に関する質問も飛び交い、料理を通じた会話が広がっていく。
パーティーが進むにつれ、料理とワインへの賞賛の声が増えていく。特にパエリアは大好評で、「これだけでも来た価値がある」という言葉をもらう。アヒージョのオイルは、バケットですっかりなくなるまで楽しまれた。
夜が更けるにつれ、会話はより深みを増していく。ワインの効果も手伝って、普段は聞けないような話題まで展開される。スペイン料理を囲みながら、仕事の話や将来の夢、最近気になっていることなど、様々な話題が飛び交う。
最後はサングリアを片手に、デザートタイムへ。チュロスとチョコレートソース、そしてフランを用意した。甘いものと共に、より会話が弾む。「次は何の料理でパーティーをする?」という声も上がり、既に次回への期待が膨らんでいる。
片付けを手伝ってくれるゲストもいて、パーティーは和やかに終わりを迎えた。「本当に楽しかった」「スペイン料理への興味が湧いた」という感想を聞くたびに、準備の苦労が報われる思いがする。
キッチンに残された使用済みの調理器具や空になったワインボトルを見ながら、充実感に包まれる。料理とワインを通じて人々が集い、会話を楽しみ、新しい発見をする。そんな素敵な時間を共有できることこそ、ホームパーティーの醍醐味なのだと実感する夜となった。
テーブルに残された最後のサングリアをグラスに注ぎ、静かに一日を振り返る。明日からの日常が始まるが、今夜の温かな空気と美味しい思い出は、きっと長く心に残ることだろう。スペイン料理とワインが紡いだ、特別な一夜の終わりである。
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