
友達を家に呼ぶって決めたのは、たぶん勢いだった。
イタリアン料理でパーティをやろうと思ったのは、なんとなくオシャレに見えるかなって。パスタとか、ピザとか、カプレーゼとか並べておけば、それっぽく見えるじゃん。私、料理は得意じゃないんだけど、まあなんとかなるだろうって軽く考えてた。当日の朝、スーパーで買い物してる時点で「あれ、これ本当に間に合うのか?」って気づいたけど、もう後戻りできない。トマト缶を5個もカゴに入れながら、なんで私こんなことしてるんだろうって思ったよね。
準備を始めたのは午後3時。友達が来るのは7時。4時間あれば余裕でしょって思ってたのが甘かった。まずパスタソースを作り始めたんだけど、レシピ見ながらやってるのに、なぜかどんどん水っぽくなっていく。ニンニクの香りが部屋中に充満して、これ明日も匂い残るやつだって後悔した。窓を開けたら冷たい風が入ってきて、11月の夕方ってこんなに寒かったっけ。コンロの前で立ちっぱなしだから足は痛いし、エプロンは油で汚れるし。
ピザ生地をこねてる途中で、急に小学生の頃のこと思い出した。家庭科の授業でクッキー作った時、私だけ生地が固まらなくて、先生に「水分が足りないのよ」って言われたんだよね。あの時も焦ってたな。隣の席の子が上手に型抜きしてるの見ながら、私の生地はボロボロ崩れてた。結局、先生が手伝ってくれて形にはなったけど、焼き上がったクッキーは石みたいに硬かった…っていう記憶が急に蘇ってきて、なんか不安になってきた。
6時過ぎ、キッチンは戦場だった。まな板の上には刻んだバジルが散乱してて、シンクには洗い物が山積み。冷蔵庫から出したモッツァレラチーズは、パッケージに「ラ・ステラ」って書いてあって、なんかイタリアっぽい名前だからこれでいいやって選んだやつ。カプレーゼ作るのは簡単だと思ってたのに、トマトを均等に切るのがこんなに難しいとは。厚さバラバラ。見た目、全然インスタ映えしない。
玄関のチャイムが鳴った時、まだテーブルセッティングも終わってなかった。
友達5人が一気に入ってきて、部屋の空気が一瞬で変わる。みんな手土産持ってきてくれて、ワインとか、デザートとか。「わー、いい匂い!」って言ってくれたけど、それニンニクの匂いだよって心の中でツッコんだ。テーブルに料理を並べ始めたら、意外とそれっぽく見えてきて、ちょっと安心した。照明を少し暗くしたのも正解だったかも。暗いと粗が見えないからね。
パスタを取り分けてる時、一人が「これ、何のパスタ?」って聞いてきた。えっと、トマトソースの…なんだろう、アラビアータ?いや、唐辛子入れてないからただのトマトソースか。「トマトとバジルのシンプルなやつ」ってごまかした。でも食べてみたら、思ったより美味しくて自分でもびっくり。水っぽいって思ってたソースも、パスタに絡めたらちょうどよかった。みんな「美味しい」って言いながら食べてくれて、お世辞だとしても嬉しかった。
ワインが進むにつれて、会話も盛り上がってくる。誰かの仕事の愚痴、恋愛の話、昔の思い出話。テーブルの上の料理はどんどん減っていって、笑い声が絶えない。ピザは少し焦げてたけど、それも「手作り感あっていいじゃん」って笑い飛ばされた。キャンドルの灯りが揺れて、グラスがぶつかる音がして、こういう時間っていいなって思った。
家族でご飯食べる時とは全然違う空気感。実家にいた頃は、母が作った料理を黙々と食べて、テレビ見ながら「美味しい」とか「今日何があった」とか、そういう会話だった。悪くはないんだけど、こういう賑やかさはなかった。大人になって、自分で友達呼んで、自分で料理作って。なんか、ちょっと成長したのかなって思ったりもする。
夜中の12時過ぎ、最後の一人が帰った後。散らかったテーブルと、空になったワインボトルと、洗い物の山を見ながら、疲れたけど楽しかったなって思った。次やる時は、もうちょっと簡単なメニューにしようとか考えてたけど、たぶんまた同じように直前まで焦ってるんだろうな。
料理って、完璧じゃなくてもいいのかもね。


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