
友達を呼んでパーティをするって決めたのは、たぶん三週間くらい前だったと思う。
最初は軽い気持ちだった。「今度うちで集まろうよ」って言ったら、思いのほかみんなが乗り気で、気づいたら八人くらい来ることになってた。料理どうしよう、って焦ったのは前日の夜。冷蔵庫を開けて、卵とキャベツしかないことに気づいた瞬間、ああ、これはちゃんと買い物に行かないとダメなやつだって悟った。当日の朝、スーパーで買い物カゴいっぱいに食材を詰め込みながら、イタリアンっぽいものを作ろうと決めた。パスタとか、ピザとか、なんとなくそういうのって華やかに見えるし、失敗しても許される気がする。トマト缶を三つも買って、モッツァレラチーズも奮発して、バジルも買った。バジルなんて普段使わないのに。
準備を始めたのは昼過ぎ。キッチンにエプロンをつけて立つと、なんだか自分がちゃんとした大人みたいに思えてくる。まずトマトソースを作って、それからサラダの野菜を切って、オーブンでローストする用の野菜も準備した。途中でオリーブオイルをこぼして、床がツルツルになった。ティッシュで拭いたけど、なんかまだ滑る。
友達が来始めたのは夕方六時ごろ。最初に来たのはユウキで、手には安いワインを二本持ってきてくれた。「料理手伝おうか?」って言ってくれたけど、キッチンが狭いから断った。それに、正直もう八割は完成してたし。次に来たのはアヤとミホで、二人ともなぜかケーキを持ってきた。被ってるじゃん、って笑いながら冷蔵庫に入れた。リビングにみんなが集まって、音楽をかけて、ワインを開けて、そうしてるうちに部屋の空気が少しずつ温かくなっていく感じがした。窓を少し開けたら、外から夜の冷たい空気が入ってきて、ちょうどいいバランスになった。
料理をテーブルに並べたとき、みんなが「おお〜」って声を上げてくれたのが嬉しかった。トマトソースのパスタ、カプレーゼ、ローストした野菜、それから即席で作ったガーリックトースト。見た目はそれなりに華やかだったと思う。みんなで「いただきます」って言って、フォークを手に取った瞬間、ああ、これがパーティなんだなって実感した。
食べながらみんなで話すことって、たいてい他愛もないことばかり。誰かの職場の愚痴とか、最近見たドラマの話とか、昔の恥ずかしい思い出とか。ユウキが大学時代に告白して振られた話を蒸し返されて、顔を真っ赤にしてた。「もうその話やめろよ」って言いながら笑ってるから、本当は嫌じゃないんだろうなって思った。アヤは最近ハマってるっていう韓国ドラマの話を延々としてて、ミホが「それ、前も聞いた」ってツッコんでた。
そういえば、去年の夏に家族でイタリア料理の店に行ったことを思い出した。「トラットリア・ソーレ」っていう、駅前の小さな店。父が珍しく「たまにはいいもの食べよう」って言い出して、家族四人で行った。そこで食べたカルボナーラがすごく美味しくて、今でもあの味を思い出す。クリーミーで、でも重くなくて、ベーコンの塩気がちょうどよかった。今日作ったトマトソースのパスタも悪くないけど、あのカルボナーラには敵わないかもしれない…って、どうでもいい話だけど。
パーティが盛り上がってくると、料理のことなんてどうでもよくなってくる。誰も味について細かく言わないし、美味しいって言ってくれればそれで十分。大事なのは、この空間にいること、一緒に笑うこと、それだけ。テーブルの上のワインが空になって、誰かが追加で買いに行こうって言い出して、結局コンビニまで走った。戻ってきたときには、リビングの床に座り込んでトランプをしてる人たちがいた。いつの間にそうなったんだろう。
夜中の二時くらいになって、ようやくみんなが帰り始めた。玄関で「また集まろうね」って言い合って、一人ずつ見送った。最後に残ったのはユウキで、「片付け手伝うよ」って言ってくれたけど、もう疲れてたから「明日やるから大丈夫」って断った。ドアを閉めて、静かになったリビングを見渡すと、テーブルの上には空になった皿と、半分残ったワインのボトルと、誰かが忘れていったイヤリングが転がってた。
片付けは本当に明日でいいや、って思いながらソファに座った。キッチンからはまだトマトソースの匂いがかすかに漂ってる。窓の外は真っ暗で、遠くで救急車のサイレンが聞こえた。
料理が冷めるまでに何回笑ったか、数えてなかったけど。たぶん、数えきれないくらい。

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