彼女と作るカレーは、いつも玉ねぎの話で脱線する

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彼女がキッチンに立つと、なぜかいつも俺は玉ねぎ係になる。

今日もカレーを作ろうって話になって、気づいたら俺は涙を流しながら玉ねぎをみじん切りにしていた。彼女は横でトマトを切りながら「目、大丈夫?」って笑ってる。大丈夫なわけないだろ、視界がぼやけて包丁持ってる手元すら見えないんだから。でも不思議なもので、こういう時間が嫌いじゃない。むしろ好きかもしれない。

このキッチン、引っ越してきた時は「広すぎない?」って思ったんだけど、二人で料理するようになってからちょうどいいって気づいた。彼女が冷蔵庫を開けてる間に俺がシンクで野菜を洗える。すれ違う時に「ごめん」って言わなくていい。前のアパートだと、キッチンに二人入ると確実にぶつかってたから。

「スパイス、どれ使う?」彼女が棚の前で首を傾げてる。クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン…いつの間にこんなに増えたんだっけ。最初は市販のルーで作ってたのに、彼女が「スパイスから作ってみたい」って言い出してから、この棚はどんどんカラフルになっていった。

去年の夏、彼女の実家に挨拶に行った時のことを思い出す。お母さんが「この子、料理できるの?」って心配そうに聞いてきて、彼女が「できるよ!」って即答したんだけど、俺の顔を見たお母さんの表情が「本当に…?」って感じだった。あの時は正直、彼女も俺も大したもの作れなかったんだよね。でも帰り道で「お母さんを見返したい」って彼女が言って、それから週末ごとに何か作るようになった。

鍋に油を熱して、玉ねぎを投入する。ジュワーって音と同時に、甘い香りがキッチンに広がる。この瞬間が一番好きかもしれない。彼女は俺の後ろから覗き込んで「もうちょっと火強くしたら?」ってアドバイスしてくる。料理番組の見すぎだろって思うけど、言われた通りにする。

「ねえ、玉ねぎってさ」彼女が急に話し始める。「切り方で甘さ変わるらしいよ。繊維に沿って切ると辛くて、繊維を断つように切ると甘くなるんだって」へえ、そうなんだ。じゃあ俺が今日切ったのはどっちだろう。もう鍋の中で飴色になりかけてるから確認しようがないけど。

スパイスを入れるタイミングは彼女に任せてる。俺が適当にやると、いつもタイミングを間違えて香りが飛んじゃうから。彼女は真剣な顔でフライパンを見つめて、「今!」って言う。クミンとコリアンダーの香ばしい匂いが一気に立ち上って、狭いキッチンなら充満して息苦しくなるところだけど、このくらいの広さだとちょうどいい。窓も開けられるし。

トマトと水を加えて、ぐつぐつ煮込み始める。ここからは待つだけ。彼女は冷蔵庫から麦茶を出して、二人分グラスに注ぐ。夕方の光がキッチンの床に斜めに差し込んでて、なんだか映画のワンシーンみたいだなって思う。そんなこと口に出したら「何それ、キザ」って笑われるだろうけど。

「辛くしすぎないでよね」彼女が念押ししてくる。前に俺が調子に乗ってカイエンペッパー入れすぎて、二人とも汗だくになりながら食べたことがあるから。あれはあれで楽しかったけど、次の日胃がもたれた。学習したよ、ちゃんと。

煮込んでる間、彼女はスマホで何か調べてる。「次はビリヤニ作りたい」だって。ビリヤニって何だよ。「インドの炊き込みご飯みたいなやつ」…ああ、また難しいやつに挑戦する気だ。でもまあ、彼女がそういう顔してる時は、俺も付き合おうって思う。

カレーの表面がぽこぽこ泡立ってきた。いい感じ。味見をする彼女の表情を横目で見る。「うん、いけるいける」彼女がOKを出した。じゃあ火を止めて、ご飯をよそって…

完成したカレーは、見た目は地味だけど、匂いはどこかのインド料理店みたいにスパイシーで本格的。二人で作ると、なんでこんなに美味しく感じるんだろうね。

ま、明日の朝は二人とも口臭がカレー臭いんだろうけど。

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