彼女と二人で作るカレーの、あの匂いが忘れられない

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玉ねぎを切る音が、妙に大きく聞こえる。

彼女の家のキッチンは、私の一人暮らしの部屋とは比べものにならないくらい広くて、最初に立ったときは正直どこに何があるのか分からなかった。調理台が二つあって、シンクも大きくて、冷蔵庫も業務用かと思うくらいでかい。「料理好きな人が住んでたらしいよ」って彼女は言ってたけど、前の住人がどんな人だったのか、ちょっと想像してしまう。

カレーを作ろうって話になったのは、確か金曜日の夜だった。私が仕事で疲れて彼女の家に転がり込んだら、「今日は何か作ろうよ」って言われて。外食でもいいんじゃないかと思ったんだけど、彼女の目がキラキラしてて断れなかった。それで、冷蔵庫を開けたら中途半端に野菜が残ってて、じゃあカレーだねってことになった。

スパイスの瓶が、棚にずらっと並んでる。クミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン…前の住人が置いていったものらしいんだけど、これ全部使うの?って聞いたら、彼女は「レシピ見ながらやってみよう」って笑った。

私は玉ねぎ係。彼女はにんじんとじゃがいもを切ってる。包丁の音が二つ重なって、なんだかリズムができてる気がした。窓から入ってくる夕方の光が、少しずつオレンジ色に変わっていく。エアコンはつけてないから、ちょっと暑い。汗が額に滲んでくる。

「ねえ、玉ねぎもっと細かく切って」

彼女に言われて、ハッとする。私の切った玉ねぎ、確かにでかい。雑。彼女のは均等で綺麗なのに、私のは適当すぎる。「料理苦手なんだよね」って言い訳したら、「知ってる」って即答された。

そういえば、中学生のとき家庭科の調理実習でカレー作ったな。あのときも玉ねぎ切ってたんだけど、涙が止まらなくて、隣の席の女子に笑われた記憶がある。今日は不思議と涙が出ない。換気扇のおかげかもしれないし、玉ねぎの種類が違うのかもしれない。それとも、彼女の横にいるからかもしれない…なんて、ちょっと気恥ずかしいこと考えてしまったけど。

鍋に油を引いて、玉ねぎを炒め始める。ジュワッという音と一緒に、甘い匂いが立ち上ってくる。彼女がスパイスの瓶を手に取って、「これ入れてみる?」って聞いてくる。クミンシードだって。小さな種みたいなやつ。油に入れた瞬間、パチパチって音がして、一気に部屋中にスパイシーな香りが広がった。これ、本格的なやつだ。いつも食べてるレトルトとは全然違う。

にんじんとじゃがいもを入れて、しばらく炒める。彼女がレシピをスマホで確認しながら、「次はトマト缶」って言う。缶切りを探すんだけど、引き出しの中がごちゃごちゃしててなかなか見つからない。「あ、そっちじゃなくて、左の引き出し」「どれ?」「もっと左」みたいなやり取りをしながら、ようやく見つけた。

トマト缶を開けて、鍋に入れる。赤い液体が、野菜の上にドバッとかかる。ここからがスパイスの出番らしい。彼女が小さじで測りながら、ターメリック、コリアンダー、チリパウダーを入れていく。私は横で見てるだけ。「次はガラムマサラ」って言われて、「それ何?」って聞いたら、「ミックススパイスみたいなやつ」って教えてくれた。

煮込んでる間、二人でソファに座ってテレビを見た。何の番組だったかはもう覚えてない。ただ、キッチンから漂ってくるカレーの匂いが、どんどん濃くなっていくのを感じてた。スパイシーで、ちょっと刺激的で、でもどこか懐かしい感じもする匂い。お腹が鳴った。

「そろそろかな」って彼女が立ち上がって、鍋の蓋を開ける。湯気がぶわっと上がって、その向こうに彼女の顔が見える。「味見してみて」って、スプーンを差し出された。

辛い。でも、ただ辛いだけじゃなくて、いろんな味が重なってる。深みがあるっていうのかな。こんなカレー、初めて食べた。「うまい」って言ったら、彼女は嬉しそうに笑った。

ご飯を盛って、カレーをかける。テーブルに二つの皿を並べて、向かい合って座る。「いただきます」って言って、スプーンを口に運ぶ。やっぱり、うまい。彼女も「おいしいね」って言ってる。

二人で作るって、こういうことなんだろうな。完璧じゃなくて、ちょっと失敗もあって、でもそれが楽しくて。

窓の外は、もう真っ暗になってた。

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