彼女とキッチンで作るカレーが、いつも少しだけスパイシーすぎる理由

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うちのキッチン、妙に広いんだよね。

引っ越すとき不動産屋が「料理好きには最高ですよ」って言ってたけど、正直そこまで料理するタイプじゃなかった。でも彼女が週末に来るようになってから、このスペースがやたら活きるようになって。二人で並んで立っても余裕があるし、調味料を取りに行くのに相手の背中を「ごめん」って押す必要もない。これが意外と重要だったりする。

カレーを作ることになったのは、たしか三月の終わり頃だったと思う。彼女が「スパイスから作りたい」って言い出して、僕は内心「ルーでよくない?」って思ってたんだけど、まあ付き合うことにした。近所のスーパーでクミンとかコリアンダーとか、普段絶対買わないやつを買い込んで、キッチンに並べたときの気分はちょっと料理研究家っぽかった。

玉ねぎを炒める担当が僕で、彼女はトマトとスパイスの準備。ガスコンロの火をつけて、油が温まるのを待ってる間、窓から入ってくる風がやけに心地よくて。春先の、ちょっと生ぬるい空気。玉ねぎを刻み始めると案の定目が痛くなって、彼女が笑いながら「泣いてる?」って聞いてくる。泣いてないし。

あめ色になるまで炒めるって、思ってたより時間かかるんだよね。レシピには「中火で15分」とか書いてあるけど、実際やってみると20分経っても全然あめ色にならない。彼女は横でスパイスを計量カップに入れながら「もっと火強くしたら?」とか言ってくるけど、焦げたら元も子もないし。このへんの駆け引きが地味に難しい。

そういえば前に一人で作ったとき、火を強くしすぎて玉ねぎを真っ黒にしたことがある。あれは悲しかった。

スパイスを入れる瞬間がいちばん好きかもしれない。クミンとターメリックとガラムマサラが混ざって、一気にキッチン中にあの香りが広がる。彼女が「いい匂い」って言いながら鍋を覗き込んできて、髪がちょっと顔にかかってるのを気にせず真剣な顔してる。トマト缶を投入して、鶏肉を入れて、水を足して。ここまで来るともう完成したも同然って気分になるんだけど、実際は煮込み時間がまだ30分くらい残ってる。

待ってる間にビールを開けた。彼女はノンアルコールの方。冷蔵庫から出したグラスが冷たくて、それを手に持ちながらキッチンカウンターに寄りかかって、鍋の中でぐつぐつ言ってるカレーを眺める。なんか、こういう時間が意外といいんだよね。特に何を話すわけでもなく、たまに「そろそろかな」とか「もうちょっとかも」とか言い合うだけ。

味見をするとき、彼女がいつもスパイスを足したがる。「もうちょっとパンチが欲しい」って言って、ガラムマサラを追加する。僕は「もう十分辛いと思うけど」って言うんだけど、結局彼女の意見が通る。で、出来上がったカレーはいつも少しだけ、本当に少しだけスパイシーすぎる。でも彼女は満足そうに食べてるし、僕も慣れてきたというか、これくらいがちょうどいいのかもって思うようになった。

ご飯をよそって、カレーをかけて、二人でテーブルに座る。キッチンの照明が少し暗めで、夕方の光が混ざって、なんとなくいい感じの雰囲気。彼女が「次は何作る?」って聞いてきて、僕は「またカレーでいいんじゃない」って答える。

広いキッチンも、スパイスの瓶が増えていくのも、悪くないかなって思う今日この頃…だけど。

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