彼女とカレーを作ったら、スパイスの量で喧嘩しかけた話

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冷蔵庫を開けたら、賞味期限ギリギリの鶏肉が出てきた。

「カレー作ろうか」って彼女が言ったのは、たしか夕方の5時過ぎだったと思う。窓から斜めに差し込む光が、キッチンの床に細長い影を作っていて、なんとなく料理するにはいい時間帯だなって感じた。うちのキッチンは二人で立っても余裕があるくらい広くて、引っ越してきたときは「こんなに使わないだろ」って思ってたんだけど、最近は彼女が来るたびに二人で何か作るようになって、この広さが意外と正解だったりする。

「普通のカレーじゃつまらないから、スパイスから作ってみない?」

彼女がそう言い出したとき、正直ちょっと面倒だなって思った。ルー使えば30分で終わるのに。でも彼女の目がキラキラしてたから、まあいいかって頷いた。スマホで「スパイスカレー 簡単」って検索して、クミンとコリアンダーとターメリックがあればいけるらしいって分かって、近所のスーパーまで二人で買いに行った。

スパイス売り場の前で、僕らは小さな瓶を手に取りながら匂いを嗅いでいた。クミンって、カレーっぽいんだけどちょっと土っぽいというか、独特なんだよね。彼女は「これ絶対美味しくなるやつ」って興奮してたけど、僕はまだ半信半疑で。ガラムマサラっていう聞いたこともないスパイスまで買おうとする彼女を止めるのに必死だった。予算オーバーするし。

キッチンに戻って、玉ねぎを切り始めた。彼女は鶏肉を一口大に切って、僕は玉ねぎのみじん切り担当。涙が出てきて、「これ絶対目に悪いやつ」ってぼやいたら、彼女が笑いながら「換気扇回した?」って言ってきた。回してなかった。

玉ねぎを炒め始めると、キッチン全体に甘い香りが広がってくる。中火でじっくり、飴色になるまで炒めるらしいんだけど、これが思ったより時間がかかる。彼女は横でトマト缶を開けたり、ニンニクをすりおろしたりしてて、なんか二人で作業してるこの感じが悪くないなって思った。

そういえば、去年の夏に一人でパスタ作ろうとして、オリーブオイル入れすぎてギトギトになったことがあったな…あのときは結局全部捨てて、コンビニ弁当食べた。

「ねえ、そろそろスパイス入れていい?」って彼女が聞いてきたとき、玉ねぎはまだちょっと白っぽかった。「もうちょい待って」って言ったら、「大丈夫だって」って勝手にクミンを入れ始めた。しかも結構な量。「ちょっと、入れすぎじゃない?」って言ったら、「レシピには小さじ2って書いてあるもん」って反論された。でもあれ、絶対小さじ2以上入ってたと思う。

鍋の中でスパイスが焦げないように混ぜながら、彼女は「スパイシーな方が美味しいんだよ」って譲らない。僕は「辛すぎて食べられなくなったらどうすんの」って言い返して、ちょっとした口論になった。料理しながら喧嘩するカップルって、傍から見たらどう見えるんだろうって、ふと思った。

トマト缶を入れて、水を加えて、鶏肉も投入。ここまで来たらもう後戻りできない。コリアンダーとターメリックも入れて、蓋をして煮込む。部屋中がカレーの匂いで充満してきて、さっきまで喧嘩してたのが嘘みたいに、二人とも無言で鍋を見つめてた。

20分くらい煮込んだあと、味見をした。

「…うまい」

予想外だった。スパイスの香りが複雑に絡み合って、市販のルーとは全然違う深みがある。彼女が「ね? 言ったでしょ」って得意げな顔をしてる。悔しいけど、彼女の勝ちだった。

ご飯をよそって、カレーをかけて、二人でテーブルに向かい合って座った。最初の一口を食べたとき、彼女が「やっぱりちょっと辛すぎたかも」って小さく笑った。僕も笑った。確かに辛い。でも、それがいい。

窓の外はもう暗くなっていて、キッチンの照明だけが僕らを照らしてる。皿に残ったカレーをすくいながら、次は何作ろうかなんて話をしてた。彼女は「次はビリヤニ」とか言い出してるけど、それ絶対もっと難しいやつだから。

まあ、また喧嘩しながら作るんだろうな。

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