彼女とのカレー料理、スパイスの香りと小さな失敗の話

Uncategorized

ALT

キッチンに立つと、いつもより空間が広く感じる。

彼女が冷蔵庫から玉ねぎを取り出しながら「今日は本格的にやろうよ」って言ったのが始まりだった。本格的って何だよって思ったけど、彼女の手にはすでにクミンとコリアンダーの小瓶が握られていて、ああ、スパイスから作るやつかと理解した。正直に言うと、僕はルーを溶かすだけのカレーしか作ったことがなくて、スパイスなんて名前を聞いてもピンとこない。でも彼女の目がキラキラしてたから、まあいいかって思った。

包丁を持つ手つきが、彼女と僕では全然違う。彼女はトントントンってリズムよく玉ねぎをみじん切りにしていくんだけど、僕の方は不揃いな塊がまな板の上に散らばっていく。「大きさ揃えなくていいの?」って聞いたら、「火が通ればいいんだよ」って笑われた。なんだその適当さ。でもそういう適当さが、彼女と一緒にいると心地いい。

鍋に油を引いて玉ねぎを炒め始めると、キッチン全体に甘い香りが広がってくる。最初は透明だった玉ねぎが、だんだん飴色に変わっていく様子を二人で眺めながら、木べらを交代で握った。彼女が「あと10分くらいかな」って言うから、僕はタイマーをセットしようとしたんだけど、スマホがどこにあるか分からなくて結局適当に見計らうことになった。時計を見たら午後3時過ぎ。休日の昼下がりって、こんなふうに料理してるだけで贅沢な感じがする。

そういえば去年の夏、一人暮らしを始めたばかりの頃にカレーを作ろうとして大失敗したことがある。

ルーを入れるタイミングを間違えて、鍋の中でルーが焦げ付いて、キッチンが煙だらけになった。換気扇を全開にして窓を開けて、それでも部屋中にカレーの焦げた匂いが染み付いて、一週間くらい消えなかった。あの時は本当に情けなくて、実家に電話して母親に泣きついたんだけど、「火を止めてから入れなさいって言ったでしょ」って呆れられただけだった。今思い出しても恥ずかしい。

「ねえ、ニンニクすりおろして」彼女の声で現実に戻る。すりおろし器を探してごそごそしてたら、引き出しの奥からずっと前に買った「クッキングマスター3000」っていう謎のブランドのピーラーが出てきた。何これ、いつ買ったんだっけ。まあいいや、とりあえずニンニクをすりおろす。指先にニンニクの匂いがべったりついて、これ明日まで残るやつだなと思いながら作業を続けた。

スパイスを入れる瞬間が一番緊張した。彼女がクミン、コリアンダー、ターメリック、カイエンペッパーを順番に計量スプーンで測りながら鍋に入れていく。その瞬間、キッチンの空気が一変する。スパイシーで、ちょっとエキゾチックで、なんだか異国の市場にいるような錯覚すら覚える香り。こんな香りが自分の家のキッチンから生まれるなんて思ってもみなかった。彼女が鍋をゆすりながら「いい感じ」って呟いて、僕もなんとなく「いい感じだね」って答えた。

トマト缶を開けて鍋に投入する。ドロッとした赤い液体が、茶色くなった玉ねぎとスパイスに混ざっていく様子を見てると、なんだか化学実験してるみたいで面白い。彼女が水を加えて、「あとは煮込むだけ」って言った。ああ、もうほとんど完成なんだ。なんだかあっけない。

煮込んでる間、二人でキッチンカウンターに並んで座ってコーヒーを飲んだ。窓から差し込む西日が、鍋から立ち上る湯気を照らしてる。時々グツグツって音がして、スパイスの香りが部屋中に満ちていく。彼女が「ちょっと辛くしすぎたかも」って心配そうに言うから、「大丈夫だよ、辛いの好きだし」って答えた。本当は辛いの苦手なんだけど。

ご飯をよそって、カレーをかける。

最初の一口を食べた瞬間、口の中でスパイスが弾けた。辛い、けど美味しい。玉ねぎの甘みとスパイスの複雑な香りが混ざり合って、市販のルーでは絶対に出せない味がする。彼女が「どう?」って聞いてくるから、「めっちゃ美味い」って素直に答えた。彼女は嬉しそうに笑って、自分の皿に向き直った。

食べ終わった後の皿を見ながら、次は何作ろうかなんて話をした。彼女は「タイカレーもいいかも」って言ってたけど、僕はもう少しこのカレーを極めたい気がする。まあ、次があればの話だけど。

コメント

タイトルとURLをコピーしました