朝靄が立ち込める湖畔のキャンプサイトで、私たち家族の一日が始まります。テントのジッパーを開けると、冷たい空気と共に森の香りが流れ込んできました。キャンプ場での朝は特別です。普段の生活では味わえない静寂と、家族だけの時間が、ここには確かに存在しています。
「お父さん、お腹空いた」と、まだ寝ぼけ眼の娘が小さな声で言います。そうだ、今日は家族みんなで朝食作りに挑戦する日です。キャンプの醍醐味は、何と言っても野外での料理にあります。普段はキッチンで当たり前のように使っている設備がない環境で、工夫しながら食事を作る過程そのものが、かけがえのない思い出になるのです。
焚き火台に薪をくべ、火をおこすところから始めます。息子が新聞紙を丸めて着火剤代わりにし、私が細い枝から順番に火を育てていきます。妻は食材の準備を始め、娘はテーブルセッティングを担当します。それぞれが自然と役割を見つけ、協力し合う姿は、日常の慌ただしい朝食風景とはまったく違う光景です。
今朝のメニューは、ホットサンドとスープ、そして焚き火で焼くソーセージです。シンプルな料理ですが、このシンプルさこそがキャンプ料理の真髄だと私は思っています。ホットサンドメーカーに食パンを挟み、チーズとハム、トマトを重ねていきます。娘が「私もやりたい」と言うので、一緒に具材を並べました。小さな手で真剣に食材を配置する姿に、成長を感じずにはいられません。
火加減を調整しながら、ホットサンドメーカーを焚き火の上でゆっくりと回転させます。時折、チーズの溶ける香ばしい香りが漂ってきて、家族の期待が高まります。息子は「まだかな、まだかな」と何度も覗き込み、その度に「もうちょっと待って」と言いながら、私も内心ワクワクしているのです。
妻が準備したスープは、昨晩のカレーの残りに野菜を足したアレンジメニューです。キャンプでは食材を無駄にしない工夫も大切な要素です。限られた保冷環境で、いかに効率よく美味しく食材を使い切るか。それもまた、キャンプ料理の楽しみの一つなのです。コッヘルでコトコト煮込まれるスープからは、スパイスの香りが立ち上り、朝の空気に溶け込んでいきます。
ソーセージは息子の担当です。串に刺して、焚き火の脇でじっくりと焼いていきます。「回しすぎると焦げるよ」とアドバイスすると、真剣な表情で火との距離を調整しています。こうした小さな体験の積み重ねが、子どもたちの自信につながり、自立心を育てていくのだと感じます。
ようやく完成した朝食を、折りたたみテーブルに並べます。ホットサンドは外はカリッと、中はチーズがとろりと溶けて完璧な仕上がりです。スープは一晩寝かせた効果で味が馴染み、深みが増しています。ソーセージは表面がパリッと焼けて、肉汁が溢れそうです。
「いただきます」という声が、湖畔に響きます。家族四人で囲む食卓は、高級レストランのどんな料理にも勝る特別なものです。娘は「このホットサンド、お店のより美味しい」と笑顔で言い、息子は「僕が焼いたソーセージ最高でしょ」と得意げです。妻と目が合い、二人で微笑みます。この瞬間のために、準備の大変さも、荷物の多さも、すべて報われるのです。
食後は家族で片付けをします。使った食器を洗い、焚き火の後始末をし、次の食事の準備を考えます。キャンプでは、料理をすること自体が一つのイベントであり、準備から片付けまでのすべてが家族の共同作業になります。普段は忙しくて十分に取れない会話も、こうした作業をしながら自然と生まれてきます。
昼食には、バーベキューを予定しています。子どもたちは今から楽しみにしていて、どんな食材を焼こうか、どんな味付けにしようかと、すでに話し合いが始まっています。夕食は、ダッチオーブンを使った料理に挑戦する予定です。キャンプでの料理は、一日の大きな楽しみであり、家族をつなぐ大切な時間なのです。
都会の喧騒から離れ、自然の中で家族と過ごす時間。シンプルな料理を囲み、何気ない会話を楽しむ。そんな当たり前のようで特別な時間が、ここにはあります。キャンプでの料理体験は、ただ空腹を満たすだけではなく、家族の絆を深め、子どもたちの成長を促し、かけがえのない思い出を作る大切な営みなのです。
焚き火の残り火を見つめながら、私は次のキャンプのことを考え始めています。次はどんな料理に挑戦しようか、どんな場所で家族との時間を過ごそうか。そんな想像をするだけで、また明日からの日常を頑張れる気がするのです。
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