
金曜の夜、誰かが「韓国料理行こう」って言い出した瞬間、もう空気が変わる。
あれって不思議なもので、イタリアンとか和食とか言われても「いいね」くらいなんだけど、韓国料理って言われた瞬間に「あー!」ってなる。なんなんだろうね、あのテンションの上がり方。たぶん、あの赤い色とか、ジュージュー焼ける音とか、そういうのが脳内で先に再生されちゃうんだと思う。で、実際に店に入ると予想通りというか、もう店内全体がワイワイガヤガヤしてる。隣のテーブルも、奥の座敷も、カウンターも、みんな笑ってる。声がデカい。
僕らが最後に行ったのは「ハンサムキッチン」っていう、名前だけ聞くとホストクラブみたいな店だったんだけど、中身はごく普通の韓国料理屋で、店員さんも別にハンサムじゃなかった。むしろおばちゃんが切り盛りしてて、注文取るときの「はいはいはいはい!」っていう返事が威勢よすぎて、こっちが圧倒される感じ。
最初に出てくるキムチとかナムルの小皿たち。あれ、地味に嬉しいよね。まだ何も頼んでないのにテーブルが埋まっていく感覚。友達の一人が「これ全部タダなの天才じゃん」ってずっと言ってて、いや毎回言ってるなお前、と思ったけど黙ってた。チヂミとかチーズタッカルビとか、定番を次々に頼んで、とりあえずビールで乾杯。ここまでは平和。
でも韓国料理屋で本当に盛り上がるのって、やっぱり辛いやつが来てからなんだよね。スンドゥブとかプルコギとか、あの真っ赤なビジュアルが運ばれてきた瞬間、テーブルの空気が一段階上がる。湯気と一緒に唐辛子の香りが立ち上ってきて、誰かが「うわ、これヤバそう」って言って、別の誰かが「大丈夫大丈夫」って根拠のないフォローをする。で、最初の一口を誰が食べるかみたいな、謎の緊張感が生まれる。
僕は辛いのそんなに得意じゃないんだけど、あの場の空気に飲まれて「いや全然いける」みたいな顔しちゃうんだよね。
実際に食べ始めると、案の定辛い。でも不思議と箸が止まらない。辛さの中に甘みとか旨味とかが混ざってて、それが癖になる。気づいたらみんな汗かいてて、額とか鼻の頭が光ってる。ティッシュで拭きながら食べて、水をガブガブ飲んで、それでもまた箸を伸ばす。会話の内容もどんどん雑になっていく。「これマジうまい」「やばいやばい」「もう無理」「いや食べるけど」みたいな、語彙力が小学生レベルになっていく。
そういえば大学の頃、サークルの打ち上げで韓国料理屋に行ったとき、先輩が激辛のやつを頼んで一人で完食しようとして、途中で顔が真っ赤になって動けなくなったことがあった。「大丈夫っすか」って聞いたら「大丈夫じゃない」って正直に答えてて、でも結局全部食べてた。あれはかっこよかったのか、ただのバカだったのか、今でもよくわからない。
韓国料理屋って、たぶん「静かに食べる」っていう選択肢がそもそも用意されてないんだと思う。店の構造的にも、音響的にも、料理のビジュアル的にも、全部が「盛り上がれ」って言ってくる。鉄板がジュージュー言ってるし、換気扇がゴーゴー回ってるし、店員さんの声もデカいし、隣のテーブルも騒がしいし。その中で静かに食べようとする方が無理がある。
だから自然と声も大きくなるし、笑い声も増える。誰かがサンチュに肉を包んで口に詰め込みすぎて、ハムスターみたいになってるのを見て笑ったり、チーズが伸びすぎて顔にかかりそうになってるのを写真に撮ったり、そういうどうでもいいことが全部楽しい。
辛さでちょっとおかしくなってるのもあるかもしれない…だけど。
結局、あの夜も気づいたら3時間くらい経ってて、テーブルの上は空いた皿と食べ残しのキムチでぐちゃぐちゃで、みんな満腹で、でもなんか名残惜しい感じで店を出た。外の空気が妙に冷たく感じて、それが気持ちよかった。「また来ような」って誰かが言って、「うん」ってみんなが返事して、それで解散。
韓国料理と友達とワイワイガヤガヤ。この組み合わせ、たぶんずっと飽きない。

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