休日の昼下がり、ちょっと広めのキッチンに立つと、彼女がエプロンを結びながら笑顔でこちらを見ている。今日のメニューはカレーライス。ただのカレーではなく、二人で一から作る本格的なスパイシーカレーだ。彼女が最近スパイスに興味を持ち始めて、「今度一緒に作ろうよ」と提案してくれたのがきっかけだった。
キッチンカウンターには色とりどりの食材が並んでいる。玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、鶏もも肉。そして小さな瓶に入ったクミン、コリアンダー、ターメリック、カルダモン、そしてガラムマサラ。見慣れないスパイスの名前を彼女が一つずつ説明してくれる。その真剣な表情が愛おしくて、思わず笑みがこぼれる。
「まずは玉ねぎをみじん切りにするね」と彼女が言いながら、慣れた手つきで包丁を握る。僕はじゃがいもとにんじんの皮をむく係だ。二人で作るというのは、こんなにも楽しいものなのかと改めて実感する。普段は外食が多い僕たちだけれど、こうして一緒にキッチンに立つ時間は特別だ。
彼女が玉ねぎを炒め始めると、甘い香りがキッチンに広がる。「飴色になるまで炒めるのがポイントなんだって」と彼女が言う。その間に僕は鶏肉を一口大に切り、軽く塩コショウで下味をつける。ちょっと広いキッチンだからこそ、二人で同時に作業ができる。狭いキッチンだったらぶつかり合ってしまうだろうけれど、このスペースなら快適だ。
玉ねぎが良い色になってきた頃、彼女がスパイスを加え始める。クミンシードが油に触れた瞬間、パチパチと音を立てて香ばしい香りが立ち上る。続いてターメリック、コリアンダー、カルダモン。スパイスが混ざり合うたびに、キッチン全体が異国の香りに包まれていく。これが本当のスパイシーカレーの香りなのだと、市販のルーでは決して味わえない豊かさに驚く。
「次は鶏肉を入れるよ」と僕が声をかけると、彼女が鍋のスペースを空けてくれる。肉が焼ける音とスパイスの香りが混ざり合い、食欲をそそる。彼女がトマト缶を開けて鍋に加えると、一気に色鮮やかになる。「ここからじっくり煮込むんだ」と彼女が言いながら、火加減を調整する。
煮込んでいる間、僕たちはキッチンカウンターに並んで座り、コーヒーを飲みながら他愛もない話をする。窓から差し込む午後の光が、キッチンを優しく照らしている。鍋からはコトコトと煮える音と、スパイシーな香りが絶え間なく漂ってくる。この時間がずっと続けばいいのにと思う。
「そろそろじゃがいもとにんじんを入れようか」という彼女の声で、僕たちは再びキッチンに立つ。野菜を加えると、鍋の中が一層賑やかになる。彼女が木べらで優しくかき混ぜる姿を横目で見ながら、僕はご飯を炊く準備を始める。二人で作るカレーライスには、やはり炊きたてのご飯が欠かせない。
さらに煮込むこと二十分。彼女が味見をして、「もう少しスパイシーにしたいな」と言いながらガラムマサラを追加する。「辛すぎない?」と心配する僕に、「大丈夫、ちょうどいい感じになるから」と彼女が笑顔で答える。その自信に満ちた表情に、僕も安心する。
ついに完成の時が来た。炊きたてのご飯を盛り付け、その上にたっぷりとカレーをかける。湯気と共に立ち上るスパイシーな香りに、二人とも思わず「いい匂い!」と声を上げる。テーブルに運んで、向かい合って座る。「いただきます」と同時に言って、スプーンを口に運ぶ。
一口食べた瞬間、口の中にスパイスの複雑な味わいが広がる。辛さだけでなく、深いコクと旨味、そして様々なスパイスが織りなすハーモニー。市販のルーでは決して出せないこの味わいこそ、二人で一から作ったからこその特別な美味しさだ。彼女が「どう?」と聞いてくる。「最高だよ」と答えると、彼女も嬉しそうに笑う。
食べ進めるうちに、じんわりと汗がにじんでくる。スパイシーなカレーならではの心地よい辛さだ。「次はもっと辛くしてみる?」という彼女の提案に、「いや、これくらいがちょうどいいよ」と僕は答える。二人で作った料理を二人で食べる。このシンプルな幸せが、何よりも贅沢な時間だと感じる。
食後、一緒に洗い物をしながら、彼女が「また作ろうね」と言う。「次は何を作る?」と聞くと、「ビリヤニとか挑戦してみたいな」と目を輝かせる。ちょっと広いキッチンで彼女と料理をする休日が、僕たちの新しい楽しみになりそうだ。窓の外では夕日が沈み始めている。カレーの香りがまだ残るキッチンで、僕たちは次の料理の計画を立てている。
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