二人きりの夜に作る料理が、なんだか特別な理由

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冷蔵庫を開けたら、賞味期限ギリギリの豚肉と半端に残った白菜が目に入った。

外食するつもりだったんだけど、なんとなく「今日は家で食べない?」って彼女が言い出して、気づいたらエプロンを引っ張り出してた。静かな夜に二人で料理を始めるって、なんというか、日常の中にぽっかり浮かんだ小さな島みたいな時間なんだよね。窓の外は真っ暗で、部屋の明かりだけが頼りで、キッチンに立つと不思議と会話のトーンも落ち着いてくる。

彼女は玉ねぎを切りながら「涙出てきた」って笑ってて、俺は鍋に水を張りながらその横顔を見てた。料理って、別に特別なことじゃないはずなのに、二人でやると妙に手際が悪くなる。どっちが包丁使う? 調味料どこ? って、いちいち確認しながら進めるから時間がかかるんだけど、それがまたいい。急いでないし、誰かを待たせてるわけでもないから、ゆっくり進めばいいんだって思える夜。

去年の冬、友達の家で鍋パーティーをやったときは、みんなでワイワイ騒ぎながら具材を放り込んで、誰が何を入れたかも分からないカオスな鍋ができあがった。あれはあれで楽しかったけど、今日みたいに二人だけで黙々と手を動かす時間とは全然違う空気が流れてる。

味見をしながら「ちょっと薄いかも」「じゃあ醤油足す?」なんてやり取りをしてると、料理が完成に近づいていくのと同時に、なんだか二人の距離も縮まっていく感じがする。テーブルに並べた皿は、レストランみたいにきれいじゃないし、インスタ映えもしない。でも、湯気が立ち上る鍋を囲んで向かい合って座ると、これ以上ない贅沢な気分になるんだよね。静かな夜だからこそ、箸を動かす音とか、スープをすする音とか、そういう小さな音がやけにはっきり聞こえる。

彼女が「美味しい」って言ってくれたとき、正直ホッとした。料理の腕前に自信があるわけじゃないから、毎回ちょっとドキドキするんだよね。でも彼女は何を作っても「美味しい」って言ってくれるから、たぶん味じゃなくて、この時間そのものを楽しんでくれてるんだと思う。俺も同じで、味がどうこうより、二人で作ったっていう事実が料理を特別なものに変えてる気がする。

食べ終わったあと、洗い物をしながら「次は何作ろうか」って話してた。カレーがいいとか、パスタもいいねとか、そんな他愛もない会話。窓の外はまだ暗くて、時計を見たらまだ夜の9時だった。こんなにゆっくり夕食を食べたのは久しぶりかもしれない。いつもはテレビをつけたり、スマホを見たりしながら食べることが多いけど、今日は何も邪魔するものがなくて、ただ二人だけの時間が流れてた。

そういえば、以前「ル・シャトー」っていうフレンチレストランに行ったことがあって、そのときは緊張しすぎてフォークを落としたんだよね。高級店だからって気合い入れすぎて、逆に失敗するっていう。あのときは恥ずかしくて顔が真っ赤になったけど、今思えばあれも笑える思い出。でも今日みたいな夜は、そんな失敗を気にする必要もないし、ありのままでいられる。

料理を一緒に作るって、相手のリズムを知ることでもあるんだと思う。彼女は几帳面で、調味料をきっちり計りたいタイプ。俺は適当に「このくらいかな」って感覚でやるタイプ。だから最初はぶつかることもあったけど、最近はお互いのやり方を尊重できるようになってきた。彼女が計量スプーンを出してきたら、俺は黙って待つ。俺が適当に調味料を振りかけても、彼女は「まあいっか」って笑ってくれる。

キッチンの照明が温かい色で、なんだか落ち着く。外の世界がどんなに騒がしくても、この部屋の中だけは別の時間が流れてる感じ。二人で料理を作って、二人で食べて、二人で片付ける。それだけのことなんだけど、この繰り返しが積み重なって、いつか大切な記憶になるんだろうなって思う。

洗い物を終えて、キッチンの電気を消した。リビングに戻ると、彼女はソファでぼんやりしてた。「お腹いっぱい」って呟いて、幸せそうな顔をしてる。

静かな夜に二人で作る料理。それは特別なレシピがあるわけじゃなくて、ただそこにいる相手と過ごす時間が、何よりの調味料なのかもしれない…なんて、ちょっと柄にもないこと考えちゃったけど。

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