二人きりの夜に作る料理が、なぜかいつもより美味しく感じる理由

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最近、夜の10時を過ぎてから料理を始めることが増えた。

別に狙ってそうしているわけじゃない。仕事が終わって、お互いに家に帰って、なんとなく「今日は外食する気分じゃないね」って空気になって、気づいたらキッチンに立っている。そういう流れ。昼間のレストランみたいに賑やかな場所で食べるのもいいんだけど、たまにはこういう静かな時間もいいよねって、最初は何気なく始めたことだった。

冷蔵庫を開けると、中途半端に残った野菜とか、賞味期限ギリギリの豆腐とか、そういうのが目に入る。「これで何作る?」って聞くと、彼女は「なんでもいいよ」って答える。あの「なんでもいい」は本当になんでもいいらしくて、過去に一度、納豆パスタを作ったときも文句ひとつ言わなかった。むしろ「意外といける」とか言ってた。あれは今思い出しても不思議な味だったけど。

包丁でネギを刻む音が、夜の静けさの中でやけに響く。昼間だったら気にならない音なのに、この時間帯だと妙にクリアに聞こえる気がする。テレビもつけてない。音楽もかけてない。たまに冷蔵庫のモーター音が聞こえるくらいで、あとは包丁の音と、フライパンが温まる音と、換気扇の低い唸り声だけ。

彼女はカウンター越しに座って、スマホを見たり、ぼんやりこっちを眺めたりしている。「手伝おうか?」とは聞いてこない。最初の頃は聞いてきたけど、今はもう聞かない。私が一人で作りたいタイプだって分かってるから。逆に彼女が作るときは、私は一切口を出さない。そういう暗黙のルールができあがっている。

そういえば去年の夏、深夜2時に突然カレーを作ったことがあった。あれは完全に失敗だった。眠気と戦いながら作ったせいで、塩を入れすぎて、二人とも一口食べて顔を見合わせた。「…しょっぱいね」「うん、しょっぱい」。結局コンビニでおにぎり買いに行った。真夜中に笑いながらコンビニに向かう二人の姿は、傍から見たら相当変だったと思う。

今日はシンプルに豚肉と白菜を炒めて、醤油とみりんで味付けする。凝った料理じゃない。レシピサイトにも載ってないような、適当な組み合わせ。でもこういう適当な料理が、なぜか深夜には合う。フライパンから立ち上る湯気が、キッチンの照明に照らされて白く光る。醤油が焦げる匂いが部屋中に広がって、お腹が鳴る。

「もうすぐできるよ」って声をかけると、彼女が皿を二枚出してくれる。箸も並べてくれる。テーブルに置かれた二膳の箸を見ると、いつも少しだけほっとする。一人暮らしの頃は、箸も一膳しか出さなかったから。

料理を皿に盛り付ける。盛り付けといっても、ただ載せるだけ。インスタ映えとは程遠い見た目だけど、湯気は立っている。それだけで十分な気がする。

テーブルに向かい合って座る。「いただきます」を言うか言わないかくらいの曖昧なタイミングで、二人とも箸を取る。最初の一口を食べる瞬間が、いつも少し緊張する。美味しくできてるかな、って。

彼女が「美味しい」って言う。お世辞じゃなくて、本当にそう思ってくれてる声のトーンで。それを聞くと、肩の力が抜ける。

外の世界では、まだ誰かが働いていて、終電に乗り遅れた人が歩いていて、コンビニの照明が煌々と光っている。でもこの部屋の中は、時間が別の速度で流れているみたいに静かで、ゆっくりしている。

食べ終わった後の皿を見ると、二人とも完食している。残さず食べてくれると、作った側としては嬉しい。洗い物は明日でいいかな、なんて思いながら、とりあえずシンクに重ねておく。

結局のところ、何が特別なのかはよく分からない。高級な食材を使ってるわけでもないし、手の込んだ技術があるわけでもない。ただ、夜が静かで、二人だけの時間があって、温かいものを一緒に食べる。それだけのこと…なんだけど。

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