
友人が「ワイン持ち寄りでスペイン料理やろうよ」って言い出したのは、確か去年の11月だった。
私は正直、ワインのことなんてほとんど知らない。赤と白の違いくらいは分かるけど、産地がどうとか品種がどうとか言われても「へえ」としか言えないタイプ。でもスペイン料理は好きだし、何より友達と集まって騒ぐのが好きだから二つ返事でOKした。問題は、何を持っていけばいいのかさっぱり分からなかったこと。
当日までの一週間、私はスーパーのワイン売り場で途方に暮れていた。ラベルに書いてある文字が全部呪文に見える。リオハ? テンプラニーリョ? 知らんがな。結局、店員さんに「スペイン料理に合うやつください」って丸投げして、2000円くらいの赤ワインを2本買った。ラベルに闘牛の絵が描いてあったから、まあスペインっぽいだろうと。今思えば完全に見た目で選んでる。
パーティー当日、友人の家に着いたのは夕方6時過ぎ。玄関を開けた瞬間、ニンニクとパプリカの香りが鼻を突いた。キッチンからはオリーブオイルがジュウジュウ言ってる音。友人は「アヒージョ作ってるから先にワイン開けといて」って、エプロン姿で手を振ってる。テーブルにはすでに何本かワインが並んでいて、チーズやオリーブの小皿が置いてあった。窓の外はもう暗くて、部屋の照明だけが暖かい。
集まったのは5人。みんな思い思いのワインを持ってきていて、中には明らかに高そうなボトルもある。一人は「これ、バルセロナで買ってきたやつ」とか言ってるし、別の友人は「アルバリーニョっていう白ブドウでさあ」とか説明し始める。私の闘牛ワインが急に恥ずかしくなったけど、まあいいや。飲めりゃ何でも。
料理が次々とテーブルに並び始めた。エビとマッシュルームのアヒージョ、パタタス・ブラバス、トルティージャ、それからイカスミのパエリア。友人の一人が「俺、ハモン・セラーノ買ってきた」って生ハムの塊を出してきたときは、正直テンション上がった。薄く切った生ハムにワインを合わせると、確かに美味い。塩気と甘みが口の中で混ざり合う感じ。
そういえば昔、大学生の頃に安いワインを一気飲みして次の日死んだことがあったな。あの時は「もう二度とワインなんて飲まない」って誓ったのに、結局こうして飲んでる。人間って学習しない生き物だ。
誰かが「このワイン、チョコレートの香りがする」とか言い出して、みんなでクンクン嗅ぎ始めたのは8時過ぎだったと思う。私には全然分からなかったけど、「ああ、確かに」って適当に相槌を打っておいた。ワインって、味わうより語る方が難しい。でも不思議なもので、何杯か飲んでいるうちに、本当に違いが分かってきた気がした。気がしただけかもしれないけど。
パエリアが出てきたとき、友人が「これには白ワインだよ」って、冷やしておいたボトルを開けた。確かにイカスミの濃厚な味に、すっきりした白が合う。米一粒一粒にサフランの色が染みていて、レモンを絞るとさらに香りが立つ。こういう瞬間、料理とワインって本当にペアなんだなって思う。片方だけじゃ成立しないというか。
途中で誰かが「スペインのバルって、立ち飲みが基本なんだよね」って言い出して、なぜかみんな立ってワイン飲み始めたのは笑った。座って飲んでも立って飲んでも味は変わらないと思うんだけど、雰囲気って大事なのかもしれない。10分で全員座り直したけど。
気づいたら夜中の12時を回っていた。テーブルの上は空になったワインボトルと、食べかけの料理の皿で埋まっている。誰かがギターを持ち出して適当に弾き始めて、別の誰かが「フラメンコ踊ろうぜ」とか言ってるけど、誰もフラメンコなんて踊れない。でもそういうバカみたいな時間が、一番記憶に残ったりする。
結局、私が持っていった闘牛ワインは意外と評判が良かった。「これ、飲みやすいね」って。高いワインが美味しいとは限らないし、安いワインが不味いとも限らない。大事なのは、誰とどんな風に飲むかなんだろう。
次は夏にやろうって話になってる。今度はイタリア料理らしい。またワイン選びで悩むんだろうな…まあ、それも含めて楽しみだけど。


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